著者のステン博士は医学部で病理学や皮膚科学を研究してきて、特に毛包の研究を専門に行ってきました。
しかしこの本ではそういった方向だけでなく「毛」について社会的、文化的な方向からも考察を加えています。
最初はやはり生物学的、医学的にみた毛というものの叙述から入っています。
哺乳類に特徴的とも言える毛ですが、人間ではそれが頭などごくわずかな部分を除いて失われています。
この理由には多くの説があるようですが、人間は脳が非常に巨大化しそれが高温に耐えないためにより効果的な放熱方法が必要となったためと考えられています。
100万年から300万年前ごろに脳の巨大化が進んだのと同じ時期に被毛を失い始めたと見られます。
多くの小説などで非常な恐怖などで「一日にして髪が真っ白になった」という描写がよく見られます。
しかし実際には髪の白化はそれほど早く進むはずはありません。
ありそうな原因としては、もともと白髪交じりの髪になっていた人が恐怖などで急激に色の濃い髪だけが抜けて白髪は残ったという事態だそうです。
多くの国で「かつら」の需要が増しています。
それに使われるのは人工毛や動物毛もあるのですが、やはり高級品としては人毛のものです。
ところが人毛は人種や地域によってかなり異なります。
白人向けのかつらには金髪やそれに準じた色の毛が必要なのですが、それは中々入手できません。
多いのはアジア系の黒い直毛なので、それを加工する必要があります。
黒い髪を脱色しさらに染めてから使用するそうです。
なお、黒人の巻き毛は髪の強度も少なくこの用途には向かないそうです。
さらにこの本は羊毛や動物の毛皮にまで叙述が進んでいきます。
人類の毛ではないのですが、人類史には密接に関わってきたということなのでしょう。
体毛を失った人間は原始の頃から動物の毛皮を身にまとわなければ極寒の中では生きていけませんでした。
現在ではそのような防寒という意味よりはファッションの要素が強いのでしょう。
ただし動物愛護の観点からは問題化されることも多くなっています。
若い頃は剛毛がふさふさだった私ですが、もう強度を失った細い髪の毛ばかり、それもどんどんと減っていきます。
毛髪の再生ということもいつかは可能になるのでしょうか。