爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「あなたを変える 行動経済学」大竹文雄著

経済学に心理学的な要素を盛り込んだ行動経済学というものは、はじめの頃は批判されたり無視されたりしたようですが、提唱者がノーベル経済学賞を取るなど着実に広がりを見せているようです。

従来の経済学のように素人をけむに巻くようなこともなく、自らの行動に合わせて理解を深めることも可能です。

 

この本は行動経済学を日本で推進してきた一人の大阪大学の大竹さんが、ある大学受験予備校の受講生に夏休みの特別講義として行動経済学について語ったものを基にして構成したということで、分かりやすい内容となっています。

また受講した高校生の回答例や質問といったものも掲載されており、なかなかよく考えられたものと見え、程度の高さを感じさせます。

 

行動経済学特有の術語というものがあり、サンクコスト、損失回避、現在バイアス、ヒューリスティックス、ナッジ、リバタリアンパターナリズムといったものですが、それぞれ経済学的に見て最適の行動というものが実際には取れない奥底にある心理学的要素といったものを示しています。

 

受講した高校生の質問で、「そもそも行動経済学マーケティングから派生した学問なのか、それとも人間の行動と合理的に考える思考能力との乖離から生まれた学問なのか」というのがありました。

答えは「後者です」ということです。

しかし本当に高校生の質問かいな。

 

いろいろな選択をする場合によく考えて最適の選択をするということは中々できないことです。

行政の一般向けの文書などでも書き方を少し変えるだけで結果が大きく変わることがあります。

臓器提供のドナーカードで、デフォルト、すなわち何も書き加えなければ「提供します」になっている国がヨーロッパ各国では多いのですが、そこでは提供同意者がかなり増えています。

しかし日本では「提供しない」がデフォルトになっているためか同意者が少ないようです。

もしも「提供する」をデフォルトにすれば同意者はおそらくかなり増えるでしょう。

ただし、デフォルトの利用にも注意点があるということです。

ワクチン接種のケースでは、コロナやインフルでは申し込みは自分でする、すなわち何もしないと接種を受けないという選択をしたことになります。

しかし、これを逆にして「あなたは何月何日に接種をすることになっています。接種しない場合は連絡してください」と通知するようにすれば接種率は大幅に上がるでしょう。

ところが、こういった手続きとした場合、受けない場合にも無断でキャンセルする人が増加してしまうようです。

ワクチンが無駄になってしまうので、接種率が上がったとしても問題が生じます。

 

行動経済学というものは、ざっと見回しておくだけでも参考になることが多いようです。