爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「古代ワインの謎を追う」ケヴィン・ペゴス著

著者のペゴスさんは特派員などを務めてきたジャーナリストで、特にワイン専門ではなかったのですが、ヨルダンに滞在していた時にたまたまホテルの部屋の冷蔵庫に備え付けられていたワインを飲む機会がありました。

普通はそのようなホテルに置いてあるワインにはロクなものがないので飲むことはないのですが、外に出ても飲める場所がなく仕方なく飲んだのでした。

ところが、そのベツレヘムのクレミザン修道院で作られた赤ワインはこれまで飲んできた他のワインとは異なる風味で、すっかり魅せられてしまいました。

しかしアメリカに帰国後にそのワインを入手しようとしても全く手がかりも無く、その修道院を紹介したものもほとんど見られませんでした。

 

そこからこのクレミザンワインを探る旅、そして古代からのワインの痕跡を巡る旅を中近東からヨーロッパ、そしてアメリカまで多くのワイナリーやワイン研究者たちを訪ねて行っていきます。

 

ワインの発祥地はコーカサス地方とも言われていますがよく分かっていません。

そこばかりでなく、多くの地域で古くからワインは作られていたのですが、そのブドウの品種はその地域での固有種だったと考えられます。

しかしそういったブドウ品種は徐々に忘れられ、高生産性で風味の良いワインが作られると言われている品種に代えられて行きました。

カベルネソーヴィニヨン、ピノノワールメルロー、シラー、シャルドネリースリングといったものです。

これらの品種はフランスなどの高級ワイン産地で使われているもので、ワインの流通が世界的になるにつれこういった品種の方が売りやすいということもあり、品種の切り替えが起きました。

 

しかし昔の各地のブドウ固有品種はこれらの広く栽培されている品種とは違ったワインを作る可能性も多く、それを再び掘り起こそうとしている人たちもいます。

著者が訪ねる各地のワイン製造者の中にもそのような活動をしている人も多いようです。

 

なお、著者は結局クレミザン修道院も実際に訪れそこで話を聞く機会を持ちましたが、かつてワイン作りを行なっていた修道士が独自の方法で作っていたものの、その人が亡くなって以降はその製法が継承されず、今は別の近代的方法での製造に変わってしまったそうです。

もはや著者の飲んだあの赤ワインは幻になってしまいました。

 

遺伝子分析技法が高度に発達し、現行のワイン用ブドウ品種のDNAも詳細に調べられるようになりました。

しかしワイン製造業者たちにとってはそれは喜ばしい情報でもないようで、現行の非常に有名なブドウ品種のDNAの中にはかつてクズ品種扱いをされて今ではほとんど使われていない品種に由来する遺伝子も含まれているようです。

そのような事実は宣伝には邪魔になるので、業者は全く無視だとか。

 

著者は全く触れていませんが、日本のワインも同様の状況がありそうです。

かつての日本ワインは固有種の「甲州」で多くが作られていましたが、今はヨーロッパから移入された品種でヨーロッパ風のワインを作ることが普通になり、それで高級ワインと呼ばれるものも出ています。

甲州種などの日本ブドウ品種のワインはだめなのか。

またヨーロッパ品種のブドウは本当に日本の気候風土に合っているのか。

問題は色々とありそうです。