生物の身体の仕組みというものは知れば知るほど奇跡としか思えないほどうまくできています。
そういった仕組みについて、身体全体について様々な事例とそれにまつわる医学の発展といったことが書かれています。
著者の山本さんは現役の外科医ですが、人体全般について広く取り上げています。
「はじめに」の項にその実例がいくつか取り上げられています。
動物の目は非常な高機能を持っており、走っている最中にも周りをはっきりと見ることができます。
スマホのカメラを構えて走ったらそうはいきません。
私たちの身体の中には「視界が揺れないための精巧なシステム」が備わっています。
また、「おなら」ができるというのは肛門に近づいた物体が固体か液体か気体かを瞬時に見分け、それが気体である場合だけ排出するという仕組みがあるからです。
これを人工的に作ろうとしても非常に困難でしょう。
このような高度な生物の仕組みが壊れたり、不調になったりするのに対処するのが医師の仕事ですが、簡単な話ではなく長年多くの研究者や医師が当たってきたものです。
まだ対処不可能というものも多数あります。
頭に怪我をして大量出血というと誰もが重症だと思いますがそうでもない場合もあります。
頭をぶつけるとタンコブができますが、それは頭だけに限られています。
実は頭部というのは頭蓋骨の外側に頭皮と細い血管が広がっており、その血管が切れると出血したりタンコブができたりということになりますが、表面の傷だけなら意外に命にかかわるほどではないことが多いようです。
逆に外部に出血もしないことがあっても頭蓋骨内部で血管が切れた場合は頭蓋内出血で命に関わる例があり、注意が必要です。
胃に寄生するピロリ菌はその特殊な生育状態からなかなか発見されずようやく1982年になって見つかりました。
それが胃がんの最大の危険因子であることも徐々に解明されてきました。
胃にピロリ菌がいるかどうかを調べる方法はいくつか開発されていますが、よく行われるのが尿素呼気試験という、尿素を含む試薬を飲んで口から吐く息の中の二酸化炭素を調べるというものです。
ただし、二酸化炭素は普通の呼吸でも大量に出されるので、ピロリ菌が出す二酸化炭素だけを検出しなければなりません。
そのために、検査薬中の尿素の炭素原子を、同位元素の13Cに置き換えたものとし、呼気の中の二酸化炭素で13Cのものと検出するのだそうです。
人体の精妙さを紹介する一方で、それらを研究しノーベル賞を取った医師たちについても触れられていますが、それに優るとも劣らないと言えるのが日本人研究者で「パルスオキシメーター」を作った青柳卓雄さんです。
病院で簡単に血中の酸素濃度を測れるということでよく見かけますが、その原理を考え出し装置として作り上げたのが日本光電という会社に勤めていた青柳さんで、1974年のことでした。
当時はそれほど注目もされなかったのですが、その後アメリカで全身麻酔中の患者が酸素不足になって死亡する事故が相次ぎ、血中酸素濃度を測定する方法としてパルスオキシメーターが注目されるようになりました。
現在では単体の測定装置としても使われますが、それ以上に生体情報モニタリング装置の中の検査装置の一つとして重要な役割を果たしています。
たしかに、「すばらしい人体」なのですが、年取ってくるとあちこちにガタが来て「かつてはすばらしかった人体」になってきました。