著者の山西さんは俳人ですが、俳句の世界ではまだ旧かなつかいをすることが多いようです。
しかし中にはわざわざ旧かなを使いながら間違ってしまう人も多いようで、それではせっかくの俳句も台無しですので正しい旧かなを覚えてもらおうという趣旨でこの本を書かれました。
なお、旧かなを使う場合でも名詞は辞書を引けば何とかなりますが、動詞などの場合は活用形を取ることもありそのままでは辞書にないこともあり判断が難しいこともあります。
そのため、この本では動詞などの例を語源までたどりながら解説するということをしていますので、かなり分かりやすくまた応用しやすいものになっています。
章ごとの章題名を見ればその分かりやすさも想像しやすいかもしれません。
「”わ”と”は”の使い分け」「”い”と“ゐ”と”ひ”の使い分け」「”う”と”ふ”の使い分け」といった調子で、動詞の場合で言えば例えば「これはヤ行上二段活用だから、ここは”ひ”ではなく”い”と書く」といった形で解説されていますので、分かりやすいのではないでしょうか。
それでは私もあやふやで間違えて覚えていた例を中心にいくつか。
「老い」「悔い」「報い」といった言葉を「ひ」と使ってしまうことが多いのですが、これらの動詞はヤ行上二段活用であり、「老いず、老いたり、老ゆ、老ゆるとき、老ゆれども、老いよ」という活用ですので、ヤ行の二段といえば「い」となるということです。
「梨食うてすつぱき芯に至りけり」という句にある「食うて」ですが、この動詞は「食ふ」(ハ行四段)ですので、それにつられて「食ふて」と書きそうなところです。
ところがこの場合は「食ひて」という連用形が「ウ音便化」しているために「食うて」となるのが正しいということです。
なんと難しい。
「をとめ」「をとこ」はもともとは「若い、未熟」を意味する「をと」に「め」「こ」が付いてできた言葉です。
そのためこう書くのが正しいのですが、それに「さ」のついた「さをとめ」という言葉があります。
田植えに携わる若い女性をこう呼ぶのですが、これは漢字で「早乙女」と書くのが普通です。
ところが「乙」という漢字は「おと」と書くものであり「をと」とは書けません。
この理由が「早乙女」という漢字が当て字だったからだそうです。
旧かなつかいという言い方は昭和21年に内閣告示「現代仮名遣い」として発表された「新仮名遣い」というものができて以来のものであり、それまではこれだけが仮名遣いでした。
現代仮名遣いでは原則として読み方と書き方を同じにすることとなっていますが、完全にそれを貫徹することはできず、たとえば助詞の「へ」「は」「を」は読み方が「え」「わ」「お」であってもこのように書くことになっています。
また同音の連呼や二語の連合という場合でも「ぢ」や「づ」が使われることもあるなど、紛らわしい例が残っています。
「か」と「くわ」、「が」と「ぐわ」の使い分けは意外に簡単なものだそうです。
実は、和語はすべて「か」であり、漢語の読みが「くわ」となっています。
そのため、俳句に限って言えば漢語の単語をわざわざ仮名書きにすることはあまりないので迷うことはないそうです。
しかし九州のこの辺では「が」を何でも「ぐわ」っと発音する方言がまだ高齢者に残っていますが、それは何か関係するのでしょうか。
知らないことが多数ありました。
まあ俳句を詠むこともまずありませんので、ほぼ使うことは無いと思いますが。