子どもは頻繁に病気になるように感じますが、その状態の判断や対処など一般に信じられている「常識」というものが思いもよらず間違っているということが多いそうです。
著者の松永さんは大学病院の小児外科で長らく執刀にあたった後、外来の小児科を開業したということで、最新の医学情報にも詳しい上に患者家族の医学常識というものにも触れる機会が多くなりました。
著者のクリニックの患者家族に「医者からどういう話を聞きたいか」というアンケートを取ったそうですが、その答えで多かったのが「ネット情報はどこまで信じられるか教えてほしい」だったそうです。
それを意識してこの本を書いたそうで、極力専門用語は使わずに分かりやすく書かれています。
まず冒頭に、「ドラマで外科医が”メス”と叫ぶと看護師が差し出す」場面は全くのウソだという話が紹介されています。
著者のいた大学病院では、これは絶対にやってはいけないことだとされていました。
もしもそれで医師の手袋に傷が付いたら手術を止めて手袋を交換しなければならず、一分一秒を争う手術の時にそのような時間を失うのは極めて危険だそうです。
その後の本文では、「医療の基本」「風邪」「感染症」「アレルギー疾患」「お腹の病気」「パンツの中」「まだまだある」と章を分けて紹介されています。
「大学病院に行くとモルモットにされる」というのは「ウソ」とも言えない点があり、かつては確かにひどかった時代もあったそうです。
しかし現在ではインフォームド・コンセントの時代であり、一応そのようなことは無くなったと考えられるそうです。
「効いたよね、早めの風邪薬」ということが言われますが、風邪に効く薬というのはほとんどありません。
著者のクリニックでも風邪の小児に出す薬というのはほとんど無いのですが、やはり親は何か薬をと欲しがるそうです。
特に抗生物質はほとんど意味はありません。
風邪のほとんどはウイルス病でありウイルスに抗生物質は効かないというのは多くの人が知っていても細菌の合併症の予防になると思っている人もいるのですが、これもまったく意味がないそうです。
現代はアレルギー疾患が増加しているのは間違いないことで、子供の親たちも必ずそのことは気にします。
そのために離乳食を始めることを躊躇してしまうママがいるそうです。
しかし「食べさせない」ことや「食べるのを遅らせる」ことはかえってアレルギー発症の引き金となることがあり、しかるべき時にちゃんと始めることが重要です。
中には離乳食を始める前にアレルギーの血液検査をやってもらいたいという親が来るのですが、始める前にやってもほとんど意味はありません。
また保育園入園前に検査をしてこいと言われることも多いのですが、これも現在抗体が無いからと言って食物アレルギーが無いなどとは言えないために意味がないそうです。
「副作用が怖いのでステロイド軟膏は使わない」という人もかなり居ます。
しかし大きな誤解があり、「ステロイド内服薬」を大量に飲むと様々な副作用が出ることがあるのですが、「ステロイド軟膏」を適正適量に使用すれば副作用の心配はありません。
この「脱ステロイド」は「アトピービジネス」という金儲けに利用されることが多く、危険な状態に陥ってしまうこともよくあるようです。
子どもでも便秘気味という場合がかなり多くなっているようです。
著者が大学病院時代に経験した例では小学校高学年の少女がひどい便秘状態となり、お腹が膨れ上がっていました。
このような場合は小児がんか便秘の可能性があるということで超音波検査を行ったら全部便が詰まっていたそうです。
こうなると普通の浣腸などではまったく効果は無く、入院させて全身麻酔をかけて便を掘り出すという処置をしてようやく取り出したということです。
その後もすでに大腸は伸びきっていてもはや動きもせず、外科手術で切り取る必要があるかもと考えたのですが、食事制限と下剤・浣腸を組み合わせて治療し無事通常の状態に戻るまで2か月かかったそうです。
なお、「浣腸や下剤はクセになる」というのも間違いで適正に使う必要がある場合は使った方が良いとか。
色々と怖い話が次々と出てきました。
うちの子もよく無事に大きくなったこと。