科学の世界では本来あるがままの対象をできるだけ単純な形に分解して理論化することが普通です。
そうでなければどのような天才的科学者であっても手におえないでしょう。
しかしそれでは自然界というものの本質を誤ってしまうのではないか。
そういった反省から複雑なものをそのまま複雑系として捉えようとする動きが科学界では出てきました。
20世紀の末の頃です。
この本は1996年の発行で、おそらく複雑系というもの自体が盛り上がっていた頃なのかもしれません。
しかしその対象のあまりにも複雑すぎ?やはり手に負えなかったのでしょうか、今はあまり聞くこともありません。
「なぜ複雑系は終わったのか」などというHPもありました。
まあそれはともかく、この本はその当時のものでありまだ熱気に包まれていた頃に書かれたということでしょう。
ただし、著者の吉永さんはサイエンスライターということですが、京都大学理学部数学専攻および文学部哲学科卒業ということで、数学的・哲学的思考に長けた方のようです。
素人にも分かりやすく本を書いてやろうという思いはほとんど無かったのか、非常に難しい本になっているようです。
というわけで内容紹介も概略のまとめもできません。あしからず。
感想だけ一つ。
ちょうど同じ頃ですが、私も会社の研究所で微生物の研究をしていました。
微生物はどれも自然界では純粋に生きているものなどありません。
しかし分離して純粋培養しなければ学名の同定もできず、性状の検討もできません。
ところが純粋培養はできないという菌もかなり多かったのです。
そういうものは周りの微生物と共生しながら生きているのだということは想像はできますが、当時の技術では何とも手の出しようがありませんでした。
今ではPCR分析でそこにどのような微生物がいるかということは解析できます。
かといって、その菌群が全体としてどのように振る舞うかを調べるなどと言うことは非常に難しいものです。
これは人の大腸の中で腸内細菌がどのように振る舞っているかを調べるということと共通する問題点です。
腸内細菌群というものも、文字通りの「複雑系」です。
もう少し、挑戦してみれば良かったかなというのが反省点ですが。