第8回 Vibrio parahaemolyticus (ビブリオ パラヘモリティクス)
この菌はいわゆる「腸炎ビブリオ」です。
ここから先は会社勤めも最後に近づき、窓際や左遷といった厳しいことばかりが続き、あまり良い思い出はないのですが、そこでも微生物に関係していきました。
最初から最後まで、良いことも悪いことも微生物関連の半生だったということでしょう。
酒造関連の管理業務をやっていた頃に事故が起き、その責任を問われて別部門へ転出ということになってしまいました。
いくつかの部署を渡り歩き、その後関連子会社に出向ということになってしまいました。
そこは、微生物に関連した衛生管理業務をやっているところでした。
食品工場やレストランなどが顧客で、そこの衛生管理を手伝ったりしていたのですが、その中であるレストランチェーンの厨房の微生物検出を実施することになりました。
とは言っても高価な機器を使ったことなどはできず、水で拭き取ったサンプルを寒天培地で培養して微生物が出るかどうかを見ると言った、原始的な方法でした。
その中で思い出に残るのが、冒頭にあげた腸炎ビブリオ菌騒動です。
腸炎ビブリオはVibrioという属に入る菌群の中でも「parahaemolyticus」という種の微生物です。
海水中に多く生息し、魚介類にも生息している可能性があります。
非常に分裂が早く食品中で増殖すると食中毒を引き起こすことが多く、かつては食中毒の原因菌でもトップクラスのものでした。
ただし、塩分濃度が低いと死滅するという性質があり、現在では魚市場では淡水で洗浄することで腸炎ビブリオ対策を行ない、食中毒発生もかなり減少したそうです。
ただし、「Vibrio属」にはそれ以外の菌種も数多く含まれています。その中でもVibrio cholerae はコレラ菌で重要な病原菌ですが、他はさほど危険な菌は多くはありません。
Vibrio菌の検出には諸法があるのですが、その時はTCBS寒天培地培養法というものを使っていました。
これは、腸内細菌(大腸菌など)は生えてこないようにしたもので、サンプルを選べばほぼビブリオ属菌のみが生えるような方法です。
これにたまたま菌が生育したために、顧客に「生育」という報告をしました。
顧客側は驚いて再度問い合わせが来ましたが、結局彼らが怖れていた「腸炎ビブリオ菌」ではなくビブリオであっても別の種の菌であるということが分かりました。
こちらはビブリオであれば種は数多くあるという感覚でみていたのですが、顧客側は腸炎ビブリオであるかどうかだけが問題でそれ以外の菌種であれば関係ないという感覚だったようです。
微生物の見方というのも数多くあり、それぞれの業務の上ではそれが大きく異なるというのを改めて感じたものです。