自由貿易といってもこれはあのTPPなどの経済連携協定というものを批判したものです。
その締結に向かっての交渉を進めるにあたってあたかもそれが自由貿易を推進するかのような宣伝がなされました。
しかしそこで言う「自由」とはあくまでもグローバル企業の活動を「自由にする」というものであり、「自由貿易」という言葉から受けるイメージとは全く違うものでした。
なお、本書は2017年2月の出版であり、トランプが大統領就任したばかり、トランプはTPP交渉からの離脱を宣言していたものの、まだ実施はされていなかった頃の状況です。
その後はアメリカはTPPからは離脱したものの、その他の経済連携協定はそれぞれ進められ、怪しい動きには事欠きません。
本書で鳴らされた警鐘も必要がなくなったとは言えないのでしょう。
TPPは貿易を自由にして活発にするため経済が振興されると言われました。
しかし貿易というものが国と国の間のものであった時代とはすでに異なり、あたかもグローバル企業の社内取引に過ぎないものが相当な比率となっており、グローバル企業のやりたい放題という意味での「自由」をさらに増そうというものでしかありません。
しかし関税を抑えることによって貿易振興ということを考えても、それがプラスに働くのは何らかの分野で経済的な強国である国のみであり、それらを持たない国には何の効果もありません。
そのことだけを見てもこれらの動きは正義とははるかに遠いものです。
そこで参考になるのが1971年にアメリカのジョン・ロールズが提唱した「正義の理論」だということです。
その第一原理は「政治的自由と言論・身体の自由を含む基本的自由が全構成員に平等に配分されていること」第二原理は「功利的な利益追求はもっとも不遇な人々の利益を改善し、最大化する場合においてのみ認められること」だということです。
こうした正義感に基づけば経済連携協定というものは本質的に正義と相反するということです。
非常に大きな批判を受けたのが、ISDS(投資家対国家の紛争解決制度)です。
国家が何らかの政策決定をした場合、それにより被害を受けたという投資家は国家を訴えて賠償を求めることができるというものですが、これはすでに各国間の連携協定でも取り入れられ実際に国が敗訴して多額の賠償金を払った例が出ています。
2016年の時点でこの訴訟の例がすでに700件を越えていました。
環境破壊のような企業活動を制限するような国の政策に対してもそれを抑えることで投資家が損をすれば訴えられるというもので、大変な影響が危惧されるものでした。
トランプがTPP離脱を決めたのも、この条項で「日本などの企業」がアメリカを訴えて敗訴する危険性があるというのを理由にしたそうです。
多国籍企業を制御する方法として、最後の章に出ているのが「グローバル・タックス」です。
各国独自の税制での企業課税はすでに限界に達しており、本社機能だけをタックスヘイブンに置くなどといった行為が蔓延しています。
世界的に協調して方策を取ることが急務でしょう。