大きな論議を呼んでいたTPP(環太平洋経済連携協定)がその推進者であったアメリカのトランプへの政権交代でアメリカが離脱という思いがけない展開になりましたが、アメリカを除いた各国でTPP継続、アメリカの翻意を促すということになっています。
そこで絶対条件のように語られているのが「自由貿易を守る」という文句で、そこには何の疑問もないように言われています。
TPPなどのメガ経済連携協定が、「自由貿易を守る」だけの意味ではないことが本書でも繰り返し説明されていますが、そもそも「自由貿易」というものが誰のためになるのかもよく考えればわからなくなってきます。
これまでも、アメリカ前政権でTPP交渉が続いていた頃にそれについて批判されていた本など読んだこともありました。
そこにはこの本にも書かれているように、ISDS条項(紛争解決制度)の問題点、知的財産権を重視するあまりに医薬品のジェネリック製造を妨害し途上国の健康を危機に晒すといったことに警鐘を鳴らす記述はありましたが、本書に書かれている「自由貿易」自体の胡散臭さ、問題点といったものの指摘はなかったようです。
その意味で、TPPに限らず他の経済連携協定というものが誰の利益を守るためのものかということがはっきりと描かれている本書は価値があると言えるでしょう。
「自由貿易」というものが絶対的善であるかのように主張され、宣伝されていますが、かつてのような国家が管理していた貿易というものは今では大きく形を変えています。
(それを昔に引き戻そうとするかのようなのがトランプの関税攻撃ですが、それは本書の出版時点ではまだ起きていませんでした。)
2001年の時点ですでに世界資産の25%が300の多国籍企業によって占められ、その売上は世界貿易の60%以上を占めていました。
つまり、「貿易」というものは実は今では「企業の本・支店間取引」、そして最終的には「企業内取引」になってしまっているということです。
これまで「貿易」として表現されていた要素は単なる長距離輸送に他なりません。
自由貿易というといかにも国の間の貿易のように思われますが、実態はこのような社内輸送に過ぎなくなっており、関税だけでなく様々な規制も取り払うことが企業にとっての利益になります。
そこでは、国が法律で禁止していたようなことも除去を求めることとなります。
医薬品についても、企業合併で巨大化グローバル化が進めば、同じ会社がアメリカでも日本でも同じように仕事を進めたい。
その中ではアメリカの新薬が日本で再び臨床試験を行い政府認可を取るなどということは二度手間でしかありません。
日本ではTPPについては、農業分野と工業分野の関税という点でした問題化されていませんでしたが、TPPに限らずほとんどの貿易協定では貿易以外の条項を多く含み、そちらの方が主体とも言える内容になっています。
(なお、TPP同様にほとんどの交渉内容が絶対秘密になっているというのもほぼ同様です)
それらの中には、金融規制の緩和、知的財産権の強化、投資家と国家の間の紛争解決条項(ISDS)といったTPPで顕著であった条項を含んでいます。
TPPが「自由貿易協定」であったとはとても言えない内容です。
「管理された」「強大な企業利益のための」「企業による管理」でしかないと言えるでしょう。
最後に、横浜市大教授の上村雄彦氏により「多国籍企業の規制の方法」が述べられています。
これは非常に参考になりそうです。
多国籍企業はすでに国家というものを凌駕しており、その影響下に様々な政策を決めさせています。
利益を上げる方法の規制を取り払い、さらにタックスヘイブンを利用して税金を回避(脱税に他なりません)しています。
彼らを規制するためにはどうすればよいか。
まず、国際社会が強調して「グローバルタックス」を実現しなければなりません。
これには3つの柱があります。
まず、第一に世界の金融情報を透明にして共有すること。
そして第二に、国境を越えて革新的な税を実施すること。
第三にグローバルタックスの実現を通じて、1%のガバナンスを99%のガバナンスに変えていくことです。
金融取引税、地球炭素税、武器取引税、通貨取引税、多国籍企業税、グローバル累進資本課税など、グローバル企業から世界各国が連携して税金を取ることで、理論上は年間300兆円以上の税収が得られます。
世界の諸問題に対する施策を実施するためには、これが重要な資金となるでしょう。
誰がこのようなグローバル企業の手先であるか、政治家を見分けていくことが重要なことなのでしょう。(まあ、全員がそうであるかもしれませんが)