爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ここまで変わった 日本史教科書」高橋秀樹、三谷芳幸、村瀬信一著

あまり変化のありそうもない歴史上の出来事ですが、それでも色々な史料が発見されたり解釈が変わったりということで思ったより変わっているようです。

歴史の教科書でも何十年も経てばガラリと書かれていることが変わっているということがあるようです。

 

この本では歴史の全時代について数十年前(だいたい30年前)の教科書と現在のものにどのような記述の変化があったかということを述べています。

 

著者のお三方は文科省の教科書調査官ということで、教科書の検定をずっと担当してきたそうですので、その記述内容の変遷というものも熟知しています。

なお、教科書はどれをとっても書かれている内容は大差ないと思いがちですが、そうでもないようでかなりの差がある場合もあるようです。

教科書の執筆者によって歴史的事実についてでも意見が異なり教科書に書かれている内容にも差ができてきます。

何冊もの教科書を同時に見るということは普通の人にはありませんので、意外な事かもしれません。

 

646年の大化の改新でそれまでの屯倉(みやけ)や田荘(たどころ)といった王族や豪族の私有地は廃止され、公地公民制が成立したと言われています。

そしてそれが723年の三世一身法、743年の墾田永年私財法で骨抜きにされ、私有地化していったとされ、教科書にもそう書かれていました。

しかしその律令国家最盛期と見られる長屋王の邸跡の発掘により出土した木簡には長屋王の私有地が相当なものであり、そこからの米や野菜が大量に運び込まれていたことが立証され、本当に公地公民制が機能していたかどうかの疑問が大きくなりました。

このような状況下で出された墾田永年私財法は、公地公民を私財化することを認めるのではなく、現状を明確にしその中で律令制をやりやすくすると言った意味のものだという学説が一般化してきたようで、教科書の記述でもそれを取り入れた解釈が多くなっています。

 

先の大戦」を何と呼んでいるか。

教科書によって差があるようです。

実は学習指導要領では「我が国に関わる第二次世界大戦」とされているのですが、教科書の中では「太平洋戦争」「アジア・太平洋戦争」「大東亜戦争」などと呼ばれています。

かつての教科書では「太平洋戦争」が一般的でした。

しかしそれでは中国など大陸で行われた戦争をきちんと理解できないということから、1985年くらいから「アジア・太平洋戦争」という呼び方が使われるようになったそうです。

戦時中には「大東亜共栄圏」を目指すための戦争であることから「大東亜戦争」と言われていたのですが、敗戦後GHQの指令でその呼称は禁止されたことにより「太平洋戦争」が一般的となりました。

それが上記の事情から「アジア・太平洋戦争」という呼称を取り入れるようになったのですが、教科書によってその扱いはかなり異なるようです。

中学教科書ではこれらの呼称が並立して記されているものもあり、中学生は目にすることが多いのかもしれませんが、高校教科書ではそれに対し「太平洋戦争」と書かれているものが多く、高校生の7割はそれしか目にしていないとか。

なお、「大東亜戦争」とのみ書いているのは例の外交問題にまで発展したあの教科書だけだそうです。

 

一応、客観的な語り口で書かれていますが、所々に教科書検定の担当者らしい姿勢が垣間見えるようにも感じました。