方言はだんだんと少なくなり、また変質しているようですが、この本は全国各地の方言について、その地方の出身者に少しずつ語ってもらうという趣旨で編纂されているものです。
書き手に選ばれているのは作家の人が多いようで、まあ妥当な人選でしょうか。
その人たちの年齢は、本書出版の2007年でだいたい50代以上の人です。
ほとんどの人は高校卒業程度の年齢までそこで育ち、その後東京などに出てきていますので、その地方にずっと暮らしていた人々と比べれば、より一層ふるさとの言葉に対しての思い入れや、こだわりもあるのかもしれません。
私が方言の中でも関わりが強いのは、熊本(現住所、家内の出身地)、長野(父母の出身地)、神奈川(少年時代から大学卒業まで過ごした)ですので、その3地域について本書で書かれた部分を紹介しておきます。
熊本について書いているのは、八代亜紀さん、ちょうど出身地も私の現住所と同じの八代市です。
八代さんが熊本言葉で好きなものとして挙げているのが「むしゃんよか」です。
「むしゃ」は「武者」であり、武士のように格好良いといった意味です。
八代さんは、むしゃんよかという言葉と自らの父親を結びつけて文章を書いています。
長野県の執筆者は、倉嶋厚さん。気象庁で予報官を勤めた後、テレビの天気予報を担当し、気象キャスターの草分けのような方です。
御本人は長野市の出身ということですが、取り上げられている言葉は「オラホウの言葉はへえ、東京にちけえもんでえ、方言なんかねえずら」という、諏訪から県南にかけての方言でした。
この言葉は、私の父母の故郷の親戚の人たちのものと、若干は異なるもののかなり似ているものでした。
神奈川県は、ラジオパーソナリティーの高嶋秀武さん。ニッポン放送でオールナイトニッポンなども担当された、懐かしいお名前です。
横須賀市の出身とのことで、あのへんの人なら誰もが思うように「自分が方言をしゃべっているなどという認識がまったくない」という意識が、ラジオ局にアナウンサーとして就職してから障害になったそうです。
原稿は問題なく読めてもフリートークになるとついつい顔を出す「早くかいんべーよー」とか「どうすんべーか」などに悩まされたとか。
方言は徐々に消えていくのでしょうが、味のあるという意味では価値のある言葉なのでしょう。