日本でも貧困に苦しむ家庭が多く、その子どもたちは教育を受けることが困難となり学歴もないまま社会に出ざるをえないということが問題視されていますが、その点にかけてはアメリカは日本とは比べ物にならないほどの状況です。
超一流の学校を卒業したらすぐに一流企業に高給で就職できる一方、高校すら卒業できずに仕事に就けないという人も多数存在します。
そして、それが階級の固定化というものにつながることになっています。
そういったアメリカ社会の現状(とはいっても2016年、トランプの大統領就任の前)を富裕層、貧困層の両方から見ていきます。
著者の津山さんは共同通信の特派員として長くアメリカに在住、その後独立してさらに取材を続けているということです。
本書の最初は富裕層の教育事情から。
名門大学の授業料などの費用が高額だということは知られてきましたが、そこに入るためには保育園から選ばなければなりません。
そういった保育園は費用も高額であり、ニューヨークの名門保育園では年間保育料の平均が1万7000ドル(当時のレートで約200万円)、高い所では2万8千ドルということころもあるということです。
これだけでも中所得者の年間収入ほどあります。
もちろん費用はそれだけで済むわけもなく、さらに小学校を目指すための家庭教師代などもかなりかかり、高額所得者以外にはまかなえる金額ではありません。
大学もハーバード大をはじめとする名門では高額の授業料などがかかります。
学費だけでも年間45000ドル、さらに全学生が寮に入るので寮費が15000ドル、他にも教科書代、研修旅行費などを加えて年7万ドル、当時のレートで約800万円では普通の家庭では払うことはできません。
名門でない大学であってもかなりの費用がかかります。
地方の州立大学などでも州からの補助金が削減されているために学生の納入金に頼ることとなり、授業料が年間1万ドルを越えることになります。
こういった費用をまかなうために多くの学生は奨学金を受けざるを得ないのですが、その借金が大きな負担となります。
高給の仕事に就ければよいのですが、そうでなければ社会生活の初めから多額の借金に
苦しめられることになります。
本書後半の貧困層の教育状況は日本では考えられないほどのものです。
日本でも落ちこぼれと言われるような生徒がいますが、アメリカの場合はその程度もはるかに激しく、さらに数も大変なものです。
幼児にでも教えるようなことから始めなければ理解できないことも多々あるようです。
本書出版時にはちょうど進行していたアメリカ大統領選でのトランプの躍進も、そういった教育困難層がトランプ支持層と重なるとしています。
そればかりでもないような気もしますが。
なお、著者はアメリカ在住が長いようですが、日本の現状についてはやや認識が古いようにも感じます。
確かにアメリカの貧困層の教育事情とは比べ物にならないかもしれませんが、日本も今では相当な問題点を抱えているようにも感じます。
それは決して他人事ではないと思います。
なお、アメリカでは名門大学などの卒業生がすぐに一流企業に高給で雇われるということがあり、それが格差拡大につながるということでしょうが、日本の場合はその事情はかなり違うのでは。
日本で「名門大学」に行っても卒業後すぐに即戦力として一流企業に高給で雇われることはほとんどありません。
まあ、中央官庁に入って自分たちだけは仕事ができるつもりになっている連中は居るかもしれませんが。
そこがつながらないというのが日米の大きな差でしょう。
だから状況は日本が少しマシということもないのですが。