生物というものは「機能」の獲得によって大きく変化していきました。
新たに獲得した機能によって、その生活自体が大きく変わるということも起きました。
そのような「機能獲得」について、化石などに見られる進化の歩みからその最初の頃の様子を語る本です。
なお、かわさきしゅんいちさん、藤井康文さんのイラストも分かりやすく、イメージを掴みやすくさせています。
生物の機能の中から、「攻撃と防御」「遠隔検知」「あし」「飛行」「愛情」のそれぞれについて、どのように進化してきたかと言うことを解説していきます。
ほとんどの生物に「食うか食われるか」という問題が重くのしかかっています。
他の生物を食べることでより効果的に栄養吸収をしようという生物が出現し、それに簡単に食べられてたまるものかと防御の方法を向上させてきた。
そういった攻撃と防御のレベルアップの歴史が生物進化の歴史とも言えます。
生物は遅くとも38億年前には生まれたと見られています。
しかしその後長い間、生物は単細胞の微生物で顕微鏡でなければ見れれないほどの大きさのものに止まりました。
それが約6億3500万年前から始まるエディアカラ紀に一気に多細胞生物となり大型になっていきます。
しかしその当時はまだ攻撃も防御もありませんでした。
その当時、生物が動いた痕跡が化石となって残っていますが、そこには海底深く潜るような跡はありません。つまり身を隠す必要がなかったということです。
それが5億4100万年前にエディアカラ紀が終わり古生代のカンブリア紀に入ると海底下に深く入り込む痕跡が化石となって残っています。
他の攻撃を受け海底を深く掘り進んで身を隠す必要が出てきたことを示します。
さらに、身体の構造も変えていき外骨格というものが出現します。
この変化は非常に多様性に富んでいたため、かつてはこの時期に多数の生物がいきなり出現したと考えられて「カンブリア爆発」と呼ばれていました。
しかし、実際は生物出現が集中したのではなく、「動物の硬組織化が促進された」すなわち多くの生物が「殻」を持つようになったためと考えられています。
そのために、化石として残りやすくなったため、一見していきなり多数の生物種が出現したかのように見えたのでした。
その前の時代から多数の生物が出現してはいたものの、それらは柔組織だったため、化石にならずに残っていなかったと考えられています。
化石になりにくい組織の考古学的解明というのは困難なものです。
次章のテーマの一つ、「眼」というものもそれ自体は柔らかい組織でほとんど化石にはならないので分からないことが多数あります。
辛うじて眼がある部分の外側を骨格が取り囲むためにその空間が空くことでそこに目が合ったと推定できるのですが、よく分からないことも多いようです。
また、最終章で扱う「生殖」についても、オスとメスが最初に分離したのはいつかと言うことも正確には分かりません。
生殖器というものもほとんどが軟組織ですので、化石にはなりにくいものです。
身体の大きさが雄雌で違うことから推定するといった手段を使わなければならないこともあるのですが、それは年代の差と見られる場合もあり化石の発掘数が少ないとその推定もやりにくいということです。
なお、主題とは少し関係のない話ですが。
ウミガメの産卵というのは多くの人の興味をひくのか時折ドキュメンタリー番組や動画として報じられることもあります。
その中で良く描かれる場面が「親亀が産卵する時に涙を流す」というところで、出産の痛みなのか子ガメたちのこれからの過酷な運命を思ってなのかと表現されることが多いようです。
しかし実際は「ウミガメはそのそも四六時中涙を流す生き物である」ということです。
ウミガメは海中を生活圏としているため、どうしても体中の塩濃度が高くなり、それを排出するために涙として流しだし、体内の塩分を外に出すということだそうです。
鳥類は恐竜の子孫であるということですが、鳥類が産んだ卵を孵化させるために抱いて温めるというのはほとんどの種で行われています。
しかし先祖の恐竜の時代にはそのようなことはできませんでした。
身体の下にしようものなら卵が体重で破壊されました。
最初は「温める」ということ無しに、「自然に温まる場所」に卵を産み孵化させたそうです。
そのため熱帯や地熱のある場所でしか繁殖できませんでした。
それでは困るというので、「植物の発酵熱」を使うという種が出現します。
卵の上に腐りやすい植物を載せることで発酵させてその熱を使ったということです。
その後、鳥類に近づいた種が出現して初めて身体で卵を温めるという手法が採用されるようになったそうです。
生物というものは、遺伝子だけ見ていてもなかなか面白さが分からないようです。