爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

杉の葉を使った除菌アルコール、NHKの情報番組より。

NHKの朝の情報番組を見ていると、たまに(しょっちゅう)突っ込みどころ満載のものが流れて楽しませてくれます。

 

今回も「杉の葉を使った除菌アルコール」だそうです。

対象の製品は次のものでした。

www.nikkei.com

医薬品卸のサノという会社が開発ということですが、番組ではそれは表に出ず、林業者、研究をした県総合食品研究センター、製造にあたった酒造会社が出てきました。

 

番組の流れは大方次のようなものです。

杉の木材を切り出した山林には多量の杉の葉が残り、廃棄処理に困る。

除菌アルコールの殺菌性を高めるためには杉の葉の成分のテルペンが有効。

杉の葉からアルコールにテルペン成分を抽出し蒸留するのは酒造会社の技術が使える。

殺菌力の高まった除菌アルコールスプレーが完成、販売に至った。

 

これのどこに突っ込みどころがあるのか、分からない方も多いかと思いますが解説してみましょう。

 

「多量の杉の葉が山林に残る」

林業として木材を出荷すれば葉などはその場に残ります。

ただし、本来はこういった植物成分は徐々に木材腐朽菌や昆虫などの働きによって分解します。

それが特に杉などの針葉樹では抗菌成分が多いために時間がかかることになります。

もしも「絶対に分解しない植物」があれば、「二酸化炭素温暖化」などは解決です。

その植物をどんどん植えていきそのままにしておけば二酸化炭素は固定化して大気中から失われていきますから。

しかしそんなことが起きるはずもありません。

広葉樹や草本植物にくらべればはるかに長い時間がかかっても、やがてはすべて分解し二酸化炭素と水に還るからです。

それが問題となるのは、やはりこういったことが支障となるような「林業」という産業形態が問題だということでしょう。

もしも金と手間をかけても枝葉などを山林から取り除いて処理すればどうなるか。

その林地の植物栄養成分はどんどんと失われ、貧栄養化していくでしょう。

それも森林の育成という意味では大きな問題です。

まさか、それを補うために肥料をまく?

 

「除菌性を高めたテルペン含有アルコール」

アルコール(エチルアルコール)は殺菌力がありますが、それに微量でも別の成分が入ればさらに殺菌力が高まることは事実です。

実際にメーカーの情報でも、グリセリンや乳酸、脂肪酸エステルなどが効果があるとされています。

そのような中で杉の葉に含まれるテルペンが効果があるというのも事実でしょう。

ただし、このようなプラスの属性を取り上げられる物資で、特にそれが天然物由来の場合ほとんど人体毒性を考えることがありません。

医薬品であれば主成分だけでなく副原料に至るまで厳しく毒性がチェックされるのですが、それ以外の製品ではそこまで厳しく言われることはありません。

また含まれたとしてもごく微量であるということから実害は無いとは思われますが、しかし本当にテルペンには人体毒性がないのでしょうか。

 

「杉の葉からテルペンを抽出するのは酒造会社の技術」

これはおそらくジンなどの製造方法と同じということでしょう。

アルコール水溶液に植物を漬け込みアルコールに溶け出す成分を抽出し、それを蒸留することによりその成分が揮発性であればアルコールと共沸しその成分を含んだアルコール溶液が溜出します。

ただしその製造量は小さいもので、番組で写していたタンクは数百リットル、漬け込まれた杉の葉もわずかな量でした。

その程度の使用量で「処分に困る杉の葉」が減るのでしょうか。

せめて数百トン単位でどんどんと使って行かなければ変わらないのでは。

 

さらに大きな問題はここです。

「処分に困る杉の葉」からテルペンを抽出してもその残渣は残ります。

テルペンなどは含量はごくわずかですから、ほとんどが残渣として出てきます。

それはどうやって処理するのでしょう。

結局は酒造会社の責任で産業廃棄物として処理するだけなのではないでしょうか。

番組最初の論旨の印象からみれば杉の葉の廃棄処理はこれでほとんど解消とでもいうものでしが、結局は場所を変えて処理しなければいけません。

しかも山林で分解を待てば林地の栄養分に還るのに対し、酒造会社からの産廃処理ではそうは行きません。

 

そして「処理にかかるエネルギー」も大変な量となります。

低濃度のアルコール水を蒸留して高濃度アルコール溶液にするためには、普通は蒸気を噴きこんで蒸発させます。

その蒸気を作るにはこれも通常はボイラーで燃料を炊き水を蒸発させて作ります。

そこには大量のエネルギーが必要であり、今後の燃料高騰の時代にはさらに費用の面でも大きな問題となるでしょう。

 

「殺菌力の高まったスプレーが販売された」

ホームページを見るとその製品も出ています。

300ml入りのタイプで1280円だとか。

他のアルコール殺菌スプレーなどを見れば、1L入りのもので1000円以下。

とても価格競争力などあるとは思えません。

関係者以外は買わないものでしょう。

 

結局、一部の人々の自己満足(特に県庁の偉いさんか)以外にはほとんど生み出すものもない話のようです。

 

こういう話のネタを頂けるNHKの朝の番組は、貴重な時間です。