爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「結婚の遺伝学」田中克己著

「結婚の遺伝学」と題されていますが、内容はほぼ遺伝する病気に関するものです。

本書はかなり古い本で、昭和43年(1968年)初版発行です。

著者の田中さんは当時東京医科歯科大学医学部教授で、遺伝学が専門であった方です。

現在も続いているようですが、その研究室では一般からの遺伝病に関する相談というものの対応をされており、本書にも引用されているように多くの人が結婚にあたり遺伝病の不安を抱えてその研究室に相談に訪れていたということです。

中には遺伝はしない病気についても遺伝病かと誤解して悩んで訪れたという人も多かったようで、その対応も難しかったようです。

 

なお、当時はまだ人権意識や差別用語などの対応も進んでいない面もあり、書かれている内容や表現には現在では問題とされるようなものもありますが、もう50年以上も前の本ですのでやむを得ないこともあるでしょう。

 

非常に多くの病気が取り上げられており、驚くほどです。

中には病気とは言えないもので、「背が低い」とか「近眼」などもあり、こういったことでも結婚にあたって悩むという人もいたのかということは、やはり子供への遺伝ということが大きな問題だということでしょう。

 

しかし、中には網膜色素変性症や進行性筋ジストロフィーなど、命に係わる病気もあり、その保因者の結婚というものは大きな問題を持つこともあるようです。

 

遺伝病の発生には近親結婚というものが大きく影響しており、日本は従兄弟結婚が多いという社会であるため、遺伝病を起こす遺伝子の重複が起こりやすいという状況だそうです。

社会的に遺伝病と目されている性質があると考えられている家系では、他の家から警戒されてしまうために、一層血族結婚が増えてしまうということもあるようです。

 

ただし、遺伝性の病気というものは非常に範囲が広く、発症者はそのごく一部であり、健康だけれどその遺伝子を保有するという人がそれよりはるかに多く存在しています。

たまたまその二人が結婚して子供を作り、発症してしまうということも良くあるようで、発症者の家系だけを警戒するのは間違っているようです。

 

まだ昭和40年代ということで、原爆による遺伝子異常というものもかなり警戒されていたという時代だったようです。

そのため、相手が広島出身というだけで家族から結婚を反対されたという事例もあったそうです。

当時はまだ原爆の影響があるかどうかということも学界でも定まっていなかったということで、大丈夫とも言い切れないということですが、他の放射線の影響と比べて大きくはないという言い方で相談者の不安を消したそうです。

 

症状があるかどうかは別として、誰でも何らかの病気の遺伝子を保有しているということは、現在でもあまり認識している人が少ないことかもしれません。

知識を広めると言うことが必要な分野と言えるかもしれません。