著者の塩野さんは古代ローマやルネサンス期の小説を数々発表されていますが、十字軍に関する物語も書かれています。
この「絵で見る」というものもその一環として書かれたかというとそうではなく、実は十字軍に興味を覚えて調べ出すよりはるか以前、30年も前にこの元本のギュスターヴ・ドレが描いて出版された「十字軍の歴史」という本に出会い、その挿絵の美しさに心魅かれいつかは自分で本にしたいと思い続けたそうです。
その「十字軍の歴史」は19世紀の前半に歴史作家のフランソワ・ミショーが書いた文章に、その世紀の後半になってドレが挿絵を描き本にしたものなのですが、塩野さんが入手したのは1941年に出版されたイタリア語翻訳のものでした。
ドレの絵は原画はペンで描かれていますが、それを彫版師が精巧なハッチングという技法で再現し、印刷するという方法で本にされています。
ドレはこの手法を駆使し当時「聖書」や「神曲」「ドン・キホーテ」といった本の挿絵画家として活躍したそうです。
この「十字軍の歴史」を元に本を作るにあたり、塩野さんはドレの絵はそのまま、そしてその右ページに解説、そして関係する場所の地図を掲載することとしました。
歴史と地理は一体であるという信念からだそうですが、まずそうでなければとても日本人には地理感覚が分からないでしょう。
対象は11世紀に始まる十字軍を200年にわたり描き、さらに十字軍の後のビザンチン帝国の滅亡からそれを滅ぼしたトルコのレパントの海戦での敗北まで扱っています。
しかし、やはり主たるものはイェルサレムの占領に成功した第1回十字軍とその後のサラディンや獅子心王リチャードの活躍でしょう。
サラディンの姿が美しく描かれていたのも、原作のミショーの描写がキリスト教絶対と言う立場ではなく、ある程度はイスラム教側にも配慮されていたためにドレの描き方にも影響を与えたのではないかと推測しています。
しかし描かれている場面の多くはおびただしい死体ばかりです。
それから続くキリスト教とイスラム教の争いがあるということでしょう。