爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

ちょっと困った科学成果発表、豊田中研が「植物を上回る光合成開発」

トヨタ自動車の関連の豊田中央研究所というところが、光から化学物質を作り出す研究を行っているそうですが、その変換効率が植物の葉緑体を上回ったという報告です。

scienceportal.jst.go.jp

植物はその体内の葉緑体で、光エネルギーを使い水と二酸化炭素からデンプンや糖などの炭水化物を合成する「光合成」をしています。

 

豊田中研では、半導体と分子触媒を用いる人工光合成セルを用い、水と二酸化炭素からギ酸を作り出す人工光合成をおこなっているのですが、その変換効率が7.2%と植物の光合成の変換効率を上回る数字を出したということです。

 

なお、光エネルギーを使うと言っても直接光から反応させるのではなく、いったん太陽電池に吸収させそこで発電した電力を使った電極で反応させています。

これもちょっと引っかかるものを感じます。

光合成というなら光エネルギーを直接物質反応に結びつけるべきではと思いますが、まあそれだけ複雑な反応にしても変換効率が上がれば良いということでしょう。

 

この報告が出たのは1か月ほど前ですが、ちょっと困ったものだという感想を抱きました。

このように「植物を上回る」などと言うと、誤解してしまう人が出るのではないか。

誰がそのように言ったのかは分かりませんが、「ウソは言っていない」ものの「誤解を与えやすい」表現と言えるでしょう。

 

植物の光合成では、それで作り出した炭水化物をエネルギー源や細胞合成の資材として用い、植物の生命反応を賄って、それで成長し子孫を残すという活動をしています。

 

しかし、この人工光合成では、出来上がるのは「ギ酸」のみであり、これは何らかの工業的使用はできるでしょうが、それだけでこの装置を合成し、再生産することなどまったく不可能です。

 

物質的な収支もさることながら、エネルギー収支を考えれば完全に入力エネルギーの大量超過でしょう。

太陽電池半導体、電極など高度な合成過程と製造工程を経なければ製造できないものを組み合わせてようやく反応させるわけですので、その装置の耐用期間でどれだけのギ酸が製造できるのかは知りませんが、絶対に元を取れることはないでしょう。

 

確かに、この反応を成し遂げるということは技術的には素晴らしいものでしょうが、実用的にはまだ気の遠くなるような距離があるということでしょう。

 

成果を誇りたいのでしょうが、ちょっと罪作りな発表かと感じます。