歴史上世界の多くの人々と苦しめてきた飢餓は今ではほとんど心配されていないように見えます。
アフリカなどで飢饉があっても、それは内戦や政情不安のためであり、平和が戻れば大丈夫といった思い込みがあります。
上記のPDFは見づらくなっていますが、農業食品産業技術総合研究機構の篠原信さんという方の作られたもので、おそらくどこかで講演をされた時の発表資料だと思います。
なかなか分かり易く作られています。
その趣旨は、いかに「農業はエネルギーに依存しているか」ということです。
最初の図では「コメは石油でできている」というショッキングな表題をつけていますが、これが実情を端的に表しています。
米ばかりではないのですが、ほとんどの農業では特に石油を中心とした化石燃料に多くを依存しています。
その大きなものは、★トラクターなどの燃料、★農薬の製造、★化学肥料ということです。
トラクターなどの農業機械の燃料というのは農業を知らない人でも想像しやすいものでしょう。
田起こし、田植え、稲刈りのそれぞれに大きな農業機械を駆使して行われている作業の画像はテレビでもよく流れますので、それに多くの燃料が使われているということも分かり易いことです。
さらに、農薬・化学肥料という現代農業の生産性を支えているものの製造にも多くのエネルギーが使われています。
篠原さんの資料にも書かれていますが、特に重要な窒素肥料の多くは大気中の窒素ガスをハーバーボッシュ法という合成法で、アンモニアにしてそれを硫安や塩安といった肥料成分とします。
このハーバーボッシュ法には大量のエネルギーが投入されます。
化学肥料がなければ世界で食べていけるのは30-40億人が限度ということです。
つまり、現在の世界人口の半分しか養えないということです。
「有機肥料」で賄えないのかということにも「無理」と答えています。
家畜や人の糞尿というものも現在ではその起源は輸入食糧・穀物です。
それが無くなれば糞尿すら不足します。
また、草木灰や刈敷(雑草や落ち葉)もその必要量を満たすことはできず、あっという間に日本列島に草木は無くなることになります。
さらに、篠原さんは触れていませんが、日本で特に顕著な事情では「温室栽培」などへのエネルギー投入、そして大型トラックで全国を走り回っての流通もあげられるでしょう。
一年中新鮮な野菜や果物が食べられる、そして北海道から九州沖縄までも多くの農産物が行き渡るというのも特に石油エネルギーあってのものです。
そして、言うまでもなく石油エネルギー価格が高騰していけばもっとも影響が大きいであろうところは、現在世界でももっとも重要な農業生産地域であるアメリカでしょう。
これもテレビなどでよく紹介されますが、超大型の農業機械、そして時には飛行機まで使っての農業生産で維持されているものですので、世界的なエネルギー窮乏となれば一番に衰退しそうです。
このように、エネルギー窮乏そして価格高騰という事態になれば、「経済成長が難しい」どころの話ではありません。
人びとの生存に直接影響のある、「農業生産」に大きな打撃が与えられるということになるのです。