日韓関係は非常に悪い状況となりますが、こういう時だからこそ日韓双方の事情に詳しい姜さんの声に耳を傾ける必要があるのかもしれません。
本書は私には珍しく出版(2020.5)直後のもので、コロナ禍についても触れてあります。
古い本にも利用価値はありますが、やはりこういったものは新しいに越したことはないでしょう。
第1次核危機と言われた1994年前後の状況から現在まで、韓国、北朝鮮、日本、アメリカなどの関係各国の情勢とその行動の裏に隠された思惑なども解説されています。
現在では核ミサイルの保有を宣言している北朝鮮ですが、以前は朝鮮半島の非核化を求めていました。
ソ連が崩壊しソ連の核の後押しが無くなったため、北朝鮮は何とかそれを切り抜ける必要がありました。
そのために在韓米軍の核兵器も撤去させ朝鮮半島非核化というものを持ち出したのは北朝鮮側でした。
そのために北朝鮮は核開発をしているかのようなポーズを取りそれでアメリカを交渉に引きずりだそうとし、半ばそれは成功しました。
しかし、そこで金日成が死亡するという事態になったため、アメリカは交渉を中断しました。
そこには、もはや北朝鮮は崩壊するという見通しがあったためでした。
ところが北朝鮮はその事態を乗り切ります。
そのために、交渉自体も雲散霧消してしまいました。
日本では中曽根政権、小泉政権の頃はまだ米朝の間を取り持とうという方向もあったのですが、安倍政権になってからは北朝鮮敵視ばかりになり、仲介機能は消えました。
平昌オリンピック頃には見られた南北融和のムードにも日本はまったく乗らず疑問視だけをしていました。
南北融和に動く韓国を「前のめり」と日本が批判すると、韓国は「日本が足を引っ張った」と見なすという形で、両者の対立は深まっていきます。
姜さんは、かつて生前の金大中さんに会ったことがあるそうです。
そこで姜さんは金大中氏に「金正日とはどのような人物だったのですか」と聞きました。
それに対し、金大中氏は「クレバーな人物だ」、「でも独裁者だ」と答えたそうです。
独裁者に対する金大中の警戒感というのは、実は韓国国内で作られたものでした。
金大中氏を何度も殺そうとし、多くの知人や支援者を殺害した独裁者、朴正熙は韓国の大統領でした。
独裁者と言うものを憎みながらも、それを敵としてではなくライバルとして見ることができるように「太陽政策」を実施しようとしたのです。
姜さんは金大中氏の言葉に大きな感慨を持ち、その太陽政策を現代に応用するために本書を書いたということです。