本の題名は「日本語と韓国語」ですが、語学的な解説がされているものではなく、日本語と韓国語の共通点、相違点の指摘もあるものの、他に韓国の文化や歴史など広く解説されています。
著者は語学者ではなく産経新聞社の記者で、現在では論説委員になっているようです。
韓国駐在という経験も無いようで、とにかく好きで韓国語を習得したということでしょうか。
それでも単に言語の習得というだけに留まらない内容であり、実際に韓国語を習って訪れようとする人にとってはかえって有用なものになっているかもしれません。
特に、こう話すと韓国人は怒り出すとかいった情報は役に立ちそうです。
日本語は他に似た言語が見当たらないという世界の中でも孤立した言語ですが、韓国語はその基本語彙では大きく異なるものの、文法や言い回しのニュアンスなどかなり共通している点も持っています。
そのために、ある時まではかなり似通った言葉だったのですが、その後の双方の言語進化で大きく異なってしまったと見られます。
さらに、多くの言葉を中国語から移入したのはどちらも同様ですので、中国語からの借用語にはかなり共通したものもあります。(似たようで全然違う言葉もあります。
そのため、外国語としての習得もやりやすい面もありそうです。
中国語の習得は「笑って入って泣いて出る」と言われるそうです。これはとっつきは楽そうでもやればやるほど難しくなるという意味です。
英語・フランス語などは「泣いて入って笑って出る」最初は難しくてもある程度行くと楽になるということです。
それと比べると日本人にとって韓国語は「笑って入って笑って出られる」数少ない言語であると言えるそうです。
(なお、諸外国人にとって日本語は「泣いて入って泣いて出る」あるいは「泣いて入ったきり出られない」言葉だそうですが)
韓国語も中国から漢字を移入してそれを使ってきました。
現在はハングルでほとんどすべてを表示していますが、元々は漢字しか使っていなかったのです。
日本と違い、漢字の読み方はほとんど1字1音で訓読みというものはありません。
中国語に由来する言葉以外の元々の言葉を「固有語」と呼びますが、上記の通り現在では日本語と韓国語に共通する固有語は少なく、300程度ということです。
しかし、聖徳太子の時代には多くの共通の固有語があったようです。
釜、窯、鎌といった漢字を「カマ」と読みますが、韓国語でも「カマ」と言う古代語は同様の意味を持っていました。
また足を「タリ」と現在の日本語でも読みますが、古代韓国語でも足(アシ)のことを「タリ」と呼んだそうです。
また第二次大戦までの数十年間は朝鮮半島を日本が植民地としていました。
その時代に日本から流入した事物の名称は日本語のまま入ってきたので、その後日本語追放という動きがあったもののかなりのものがそのまま残っているということです。
これらは韓国人も日本由来とは思わずに使っているとか。
ザブトン、ワリバシ、ヨウジ(爪楊枝)、シボリ(おしぼり)、ヤキトリ、オデン、モリソバ、等々です。
また、「ワイロ」「ウラミ」「ヤミ」といった言葉も日本語同様に使われていますが、そういう時代だったのでしょう。
彼の地のことを日本では「韓国」とか「朝鮮」とか呼びますが、実は地域名というのが無いそうです。
日本であれば「日本」という地域に「日本国」という国があるという理解で間違いないのですが、あの半島も南では韓半島、北では朝鮮半島と呼んでいるそうです。
そもそも「韓」というのも古代の馬韓秦韓慕韓の三韓時代の国名ですし、「朝鮮」というのは14世紀から19世紀まで李氏朝鮮の国名でした。
李氏朝鮮の最末期に国名を「大韓帝国」としたために、日本の植民地から脱した南で国名を「大韓民国」としたのですが、北ではそれを嫌い「朝鮮民主主義人民共和国」としてしまいました。
そのために、現在では南のことは韓国、北のことは北朝鮮と呼ぶのが普通ですが、南にも朝鮮という呼称が付くものが幾つかあります。
新聞の朝鮮日報や、朝鮮ホテルというものがあるのですが、一般のことまで「朝鮮」と特に日本人が言うと反発を受けるそうです。
特に、韓国語で「チョソン」と言えばまだ良いのですが、日本語風に「チョウセン」というととたんに反発されるとか。
日韓関係では特に悪化したのが豊臣秀吉の朝鮮出兵と、明治以降の植民地化の時代でした。
したがって、韓国で嫌いな日本人トップは今でも豊臣秀吉ですが、好きな日本人はそれを滅ぼした徳川家康だそうです。
なお、韓国では祖先から受け継ぐ姓という意識が非常に強く、真実かどうかは問題があるようですが、何百年前からの詳細な記録が各氏族に残されているそうです。
日本でも同様と思うらしく、加藤さんや伊藤さんは加藤清正と伊藤博文との血縁関係があるのかないのかをはっきりとさせないとまずいようです。
韓国での姓というものと、日本の氏名とはその性質が大きく異なり、日本では歴史的にころころと変わってきた時代がありますが、韓国では先祖から一貫して同じ姓を用いており、金という人が22%、李が15%、朴が9%で上位3氏で半分近くいるそうです。
ただし、同族と認識されるのは同じ名前でも本貫という出身地が一緒のものだけと言うことで、「金海金氏」(慶尚南道金海出身の金氏)が金氏の中でも最も多く、金氏の4分の1を占める(つまり全国の5%以上)そうです。
そして、本貫も同じものを同本同姓として、同じ一族と考えるそうです。
同本同姓のものは結婚できませんので、そこから生まれる問題もあるようです。
本書最後は、韓国のことわざを紹介してあります。
日本とほぼ同様のものもあり、まったく異なるものもあり様々ですが、やはり儒教的な影響が強く出ているようです。
さまざまな事件が重なり両国関係がさらに悪化をしている時期ですが、よく相手のことを理解することから始められれば和解の緒になるかもしれません。