植物と言うものは「怖くて眠れなくなる」ものでしょうか。
植物学者である著者は、以前に同じ出版社から「面白くて眠れなくなる植物学」という本を出したのですが、その続編として「怖くて眠れなくなる」を書いてくれと頼まれました。
本人も植物はそんなに怖いということはないと感じたのですが、そのつもりになってあれこれと考えていくと、「結構、植物って怖い」ということに気が付いたそうです。
植物が生い茂った深い森に入ると、人間は言い知れない恐怖を感じることがあります。
実際に猛獣や魔物が住んでいるかのように感じるということもあったでしょうが、それが無いとしても植物だけでもなにか畏怖感を持ちます。
これは、神社などでご神木が一本だけ立っているのを見ても同様です。
動物と植物とは何か違うということが感じられるからでしょうか。
動物は生殖のあと細胞分裂を繰り返し生体となればもうその中心部が死んでしまえば生き返りません。
しかし、植物の場合は茎の一部、根の一部が残っていればまた同じような植物体が再生します。
これは、その植物が不老不死であるということでもあります。
細菌のような微生物では分裂して増えていっても同じものであり、不死ということなのですが、植物も高等生物と言われるものでありながら、その性質を持っています。
どうやら、細胞の種類としては非常に似ているのですが、植物と動物とではかなりの違いができているようです。
人間は農業と言うものを作り出して以来、いろいろな植物を改良して自分たちの使いやすいように変えて利用してきました。
キャベツやレタス、ダイコンやイチゴ、そういった作物の原種というものは、もはや似ても似つかぬもののように見えます。
しかし、これは「人間が植物を利用する」ばかりでしょうか。
生物の一番大切なことは「子孫を残す」ことです。
それを追求して動物ばかりでなく植物においても激しい生存競争を繰り広げています。
その眼でみれば、イネやムギといった植物は、何もしなくても広大な土地で子孫を残していることになります。
どうやら、「植物がうまく人間を利用している」と言えるのかもしれません。
ムギが「人間の栽培種」の地位を獲得できたのも、一つの突然変異からでした。
ムギの原種(祖先種」は「ヒトツブコムギ」というものです。
しかし、そのヒトツブコムギ自体は人間は利用することができませんでした。
それは実をつけると一粒ずつ地面にバラまくようになっていました。
そうでなければ植物の子孫繁栄にはつながらないので、当然の性質です。
しかし、その中で一株の変異種ができました。
種子が熟しても地面に落ちない「非脱粒性」というものをもったものでした。
これが出現して初めてコムギを人間が利用できるようになったのでした。
しかし、このような小麦を栽培し、それは農業の普及につながり、やがて階級の拡大につながり、都市ができ、帝国ができ、文明が出現した。
考えてみればムギの一つの性質の変異が人類の歴史を作り出したのかもしれません。
植物は多くの毒を作り出します。
自らを守るためにも必要なことで、トリカブトやベラドンナといったものは毒殺にも使われていて有名なものです。
しかし、嗜好品として親しまれるコーヒーや紅茶、チョコレートなどといったものも、その成分は弱いとはいえ毒性があるものであり、ごく微量であるために害がないと考えられているだけです。
他にも多くの植物が生産する成分が様々な用途で使われています。
まだまだ植物について知られていないことは多いようです。