「炎上」と「クチコミ」、どちらもネット社会特有の現象としてよく耳にするようになりました。
著者の山口さんは計量経済学がご専門ということですが、ネット関係にも詳しい方のようです。
あとがき、に正直に書いてありますが、以前に「ネット炎上の研究」という本を出版されたのですが、あまり売れなかったそうです。
そこで、出版社からの「今度はビジネス書として出してみたら」という助言のもとに書いたのがこの本だということです。
そのためか、対象も企業の情報担当者などとし、図表やグラフも載せられているもののさほど学術的なものとはせず、わかりやすい実例を散りばめるという、読みやすいものとなっているようです。
PCでのネット接続でかなりインターネット社会となりましたが、その後のスマホの爆発的流行で、国民のほとんどがネット社会住民となる状態がやってきました。
その中で、ネットを十分に活用して企業活動を行っている会社もありますが、一方では一応ホームページは作ってみたけれどという程度の会社もまだ多く残っています。
特に、ソーシャルメディアを活用しているという企業は、平成28年の調査でまだ22%に留まっており、5社に1社程度となっています。
クチコミというもので売上が伸びる可能性には期待するものの、炎上が起きたら怖いという恐怖心もその原因となっているようです。
会社発信のソーシャルメディアで、一度炎上が発生すると株価も打撃を受けるという例もあります。
それは、飛行機事故に匹敵するほどの影響ともされています。
さらに、ネット上では「火のないところに煙が立たない」というわけでもありません。
単なる誤解に過ぎないのに、思い込みで炎上してしまったという例も多数存在します。
このような危険があるのなら、近づかない方がマシというところも多いでしょう。
そのような「表現の萎縮」というものは確かにあるようです。
「炎上」と「クチコミ」に関して、一般に持たれる印象と実像とはかなり違う場合もあるようです。
ネット炎上というものは、多くの人々からの怒りが集中すると考える人も多いでしょうが、実際はごく少数の人間が関与している場合がほとんどです。
著者が調査したところ、「炎上」に一度でも書き込んだことがあるという人は、調査対象の1.1%しかいませんでした。
どうやら、現役の炎上参加者と言える人は0.7%程度と見積もられます。
「クチコミ」についても同じような傾向が見て取れます。
これも調査によると、一度もクチコミなどに書き込んだことが無い人が54%。
経験のある人でも、多くの人はせいぜい半年に1回といったもので、ごく少数の人が盛んに書き込んでいるというのが実情です。
したがって、こういった「ネット世論」というものは、社会の全体の意見傾向を反映しているとは言えません。
さらに、ネット世論は中庸の意見の人はあまり書き込もうとはしません。
極端な意見、ネガティブな意見というものを持っている人ほどネットに投稿しようという傾向が強く、そういった書き込み行動がネット世論を形作っています。
ネットで「炎上」に参加するのは、「バカなヒマ人」「社会的弱者」ではないかという見方もされますが、実際には「年収が高い」「主任・係長クラス以上」の方が多いようです。
ただし、主任・係長クラスの人が多数参加しているということではなく、やはり参加者はごく一部の人に限られているようです。
こういった人たちの「炎上」参加の動機は、よく言われるような「ストレス発散」であることは少なく、「正義感」から来ているようです。
「面白いから参加する」「ネットオタク」というイメージとは相当違いそうです。
ただし、よく調べないで誤解したまま批判投稿というのは、そういった人たちでも同様で、間違ったまま自分たちの正義感で突っ走ってしまうという例も多そうです。
巻末には「炎上対策マニュアル」というのもまとめられています。
企業の担当者などには参考になるかもしれません。
私もこのブログでかなり思い切った(と自分では思っている)批判などをしていますが、幸いこれまで炎上ということにはなっていません。
しかし、気をつけておかねばならないのは確かです。