栄養疫学の研究者の児林聡美さんが、FOOCOM.NET専門家コラムで以前からいろいろと解説記事を書かれていますが、基本に立ち返り「栄養疫学」というものはどういうものかというところから、詳しく説明をしています。
まず最初に、栄養学といってもかなり性質の異なる3つの分野からなっているということを分かりやすく書かれています。
3つの学問分野とはそれぞれ、(1)食べ物のための学問、(2)メカニズムのための学問、(3)利用のための学問です
そして、その各分野の詳細説明が以下の様なものです。
(1)の食べ物のための学問は、食品そのものを扱う基礎研究です。
ここでは、ある食品の中にどのような栄養素が含まれているか、そしてその含まれている栄養素にはどのような特徴があるのか(加熱したり空気に触れたりすると変化するのかなど)といったことを、実験によって明らかにします。(2)のメカニズムのための学問は、実生活で食べ物を食べることまでを視野に入れた応用研究です。
ここでは、ヒトの体内で起こるミクロの現象を解明します。
ある栄養素はがん細胞の増殖を実際に抑制するか、もしそうであればがん細胞中のどの部分に結合して効果を発揮しているのか、といったことを研究します。
多くの場合、この段階でヒトが食べた効果を検討することはなく、培養したがん細胞でそのような現象が起こるかを確認したり(細胞実験)、マウスやラットなどの動物に食べさせて生きている動物の臓器の中でも同じ現象が起こるのかといったことを調べたりします(動物実験)。(3)の利用のための学問は、主にヒトを調べる応用研究です。
食べ物のための学問やメカニズムのための学問で明らかになったことを、どのように日常に取り入れれば効果的かを解明し、具体的な行動を提案します。
ここでは、がんを予防する可能性のある食品を、実際にヒトが食べたときにどうなるか、多数のヒト集団を対象にした疫学研究で明らかにします。
ヒトを扱うため、大学では栄養学系の学部以外に、医学部などでも教育が行われています。栄養疫学は、臨床栄養学や公衆栄養学といった栄養学の知識と、疫学の手法を用いて実施する研究ですから、3つの学問分野の中では利用のための学問に含まれると考えられます。
この後の部分に児林さんも嘆いている?ように、3つの分野が協力していかなければ何も動かないとも言えるのですが、どうも(1)(2)ばかりが暴走しがちのようです。
まあはっきりとは書かれていませんが、食品に◯◯の成分が含まれている、その成分は細胞実験や動物実験で制癌作用がある、といった情報が世の中に溢れかえっており、それだけでそれを含む食品を売ろうというCMが次々と流れています。
しかし、それが本当に人体のガンに効くかどうかは(3)の研究が欠かせないにも関わらず、そこまで調べられることはあまり無いようです。
ここには、記事中にもあるように(1)(2)は農学部や理学部などで行われる事が多く、人体に関わる栄養学と言う捉え方が欠ける場合も多いというのも事実でしょう。
この(3)の分野に栄養疫学というものも含まれます。
しかし、(1)(2)と比べると研究者の数も圧倒的に少なく、またその認知も十分にされているとは言えないようです。
まあ、医学の分野でもそうなんですが。
研究者の間での交流にも力を入れているようです。良い方向に進めばと思います。