爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「人口減少と社会保障」山崎史郎著

年金や医療などの社会保障は、人口減少に向かう中でその存立も危ぶまれている状況です。

その経緯と今後を、厚生労働省社会保障関係の制度確立や執行を担当してきた著者が専門的に説明しています。

その現状認識は極めて詳細であり、官僚の優秀さというものを感じさせるものです。

 

しかし、本書後半部のこれからどうするかというところは「少子化対策」「全世代型社会保障」「はたらき方改革」と続き、「あれ、安倍の言ってることと一緒じゃない」と思わせるものでした。

それも当然か。

というわけで、後半は読む気も起きませんでした。前半部は非常に興味深いものです。

 

社会保障には4分野があるそうです。

社会保険」とは医療保険や年金、介護保険雇用保険などの保険方式によるものです。

「公的扶助」は国家扶助による最低限の生活保障、すなわち生活保護です。

「公衆衛生」は保健所の保健活動や食品・医薬品分野です。

社会福祉」は国の行為としての児童福祉や障害者福祉です。

 

社会保障制度がどうであるかということを論じる前に、日本社会の変化ということを見なければなりません。

特に近年の大きな変化として、

「家族の変化」「雇用システムの変化」「孤立や格差など社会のひずみ」「人口減少」が挙げられます。

いずれも、現在の社会保障システムの基礎を形作っている社会の形がガタガタと崩れかけています。

 

これまで作られてきた「日本型福祉社会」というものは、同居する家族が助け合いながら生活していくということを前提として、最小限の公的サービスで設計されていました。

したがって、高齢者の生活費は同居親族が払い年金は小遣い程度、介護も彼らが行いできないところだけを行政がやるという程度でした。

しかし、核家族化から個人化にまでどんどんと進んでしまいました。そうなると年金も不足、介護費用もありません。

 

かつての正社員雇用が当然の社会では、それを基にした年金や医療保険制度で企業の負担をあてにした制度が成り立ちました。しかし、企業経営が厳しくなりかつては主婦層だけが該当したパートタイマーと言う身分に一家の主人までが落ちてしまうと、年金もなくなり国保も払えなくなります。これも制度の基本がどんどんと崩れているからです。

 

そもそも、年金や医療が社会保険方式となっているのは、それしか無いからではありません。

戦後の社会保障制度構築の際にも社会保険方式を選ぶか税方式を選ぶかでは議論があったそうです。

日本では自助という考え方から社会保険方式を選択しました。

しかし、個々の制度を見るとそればかりではない要素が多いようです。

年金でも企業からの負担が見込める厚生年金はきちんとした自助制度とできましたが、農業者、自営業者などの国民年金は極めて厳しいものとなりました。

結局は多くの国庫負担を供出せねばならず、税方式とどこが違うか分かりにくいものです。

 

人口減少が進む中で、格差拡大、孤立化した個人の増加ということがさらに進行していけば社会保障でも負担が増える一方でしょう。制度だけではその救済は難しいと思います。