爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「なくなりそうな世界のことば」吉岡乾著 イラスト西淑

世界には7000の言語があるそうです。

その中で多くの人が母語としている「大きな言葉」には中国語普通話(9億人)、英語3億7000万人、日本語も世界9位で1億2800万人といった言葉がありますが、一方「小さな言葉」はごく少数の人が話すだけで、それもどんどんと消えつつあります。

 

この本はそのような「小さな言葉」について、それぞれの専門研究者にその言語の中の一つの言葉を選んでもらい、それに西さんが味のあるイラストを付けて紹介するというものです。

それほど多くのことを紹介できるわけではありませんので、一言語あたり見開き2ページ、左のページに一つの言葉とそれを表すイラスト、右のページで言語と話す民族を紹介といったものです。

なお、右ページの欄外に数字が書いてあるのが何かと思えば、現在の話者の数でした。

最初の方はそれでも数十万だったのですが、最後の方に行くとどんどんと少なくなってきて、カムチャツカに住むイテリメン人のイテリメン語は10人、アイヌ語は5人、そして一番最後に載せられているインドのアンダマン諸島に住む人々の話す大アンダマン混成語は最後の話者が2010年に亡くなったので、「0人」でした。

 

最初に紹介された言語の分布地図がありますが、多いのはパキスタン奥地、ネパールから中国奥地、太平洋諸島、そして東シベリアからサハリン、カムチャツカといったところのようです。

言語が独自の発展を遂げるためには周囲から独立した文化が維持されることが必要でしょうから、あまり大平原に大帝国といったところには残りにくいのでしょうか。

 

それにしても、一つ一つの言葉に味のあること。

そして、それにふさわしいイラストがまた楽しめます。

 

モンゴル語族に含まれる、ブリヤート人の話すブリヤート語はそれでもまだ30万人程度の人が話すそうです。

やはり遊牧の伝統がありますので、その言葉も「セルゲ」意味は「馬つなぎの杭」だそうです。

 

パキスタンアフガニスタンに住むワヒー人の話すワヒー語は、イラン語のパミール語派に属するそうですが、やはり牧畜を主とする民族のために、それに関する言葉が充実しているそうです。

「プルデュユーヴン」という言葉は「家畜に乳を出す気にさせる」という動詞だそうです。

 

カムチャツカ半島北部に住むコリャーク人の話すコリャーク語は2000人ほどしか話者がいません。

ここで選ばれた言葉は「ウィヌクジュガージュトゥグル」で、意味は「7月末から8月初めに種牡トナカイが角を磨くときの暑さ」だそうです。

真冬には氷点下60℃にもなるという地方でも真夏にはひどく暑くなることがあるそうです。そのときのために一つの言葉をあてています。

 

紹介された50の言葉のうち、ただひとつ知っていたことが「イヨマンテ

アイヌ語で「熊祭」とか「熊送り儀礼」といった意味の言葉です。

アイヌ民族は今でも10万人ほど居るのですが、アイヌ語を流暢に話せる人はもう5人以下だそうです。

元々は北海道を中心に本州東北部、サハリン、千島列島にも広がっていたのですが、周辺部は早くに消滅しました。

アイヌ語の系統は不明、4人称と呼ばれる特殊な人称概念を持つそうです。

 

日本語という大言語ですら、英語に飲み込まれる危険性が言われる時代ですので、各地の少数民族の言葉が消滅するのは仕方のないことかもしれませんが、一つ一つの言葉の味わいというものも永久に失われてしまうのかと思うと何かやりきれない思いもします。

 

なくなりそうな世界のことば

なくなりそうな世界のことば