クレームと言えば苦情ですが、よく言われるように「お客様の苦情は宝の山」と商品品質の向上のために役に立つようなものもあります。
しかし、この本で描かれているのは、そういったクレームではなく、いわゆる「クレーマー」つまり恐喝やタカリ寸前の手段で店やメーカーから金品を得ようという、そういった連中に著者がどのように対処してきたかというものです。
著者の関根さんは大手デパートの西武百貨店に長く勤務し、そこでお客様相談室長を勤め、その後は独立してクレーム対処の指導をされている方です。
本書PRに書かれているには、「1300件以上の苦情に対応した体験」とか。
関根さんは、ある懇親会で某大学教授が「クレーマーの増加は格差拡大による」すなわち経済的に困窮する人が増えてクレーマー化していると話すのを聞いて違和感を覚えます。
その経験によれば、クレーマーとなる人々には裕福な階層が多いとか。
彼らが、他で受けた不満を解消するために立場の弱い店舗販売員などにストレスをぶつけると言う例が目につくそうです。
本書の冒頭にある、若い女性の例もその一つで、かなり裕福で買ったものも高級指輪であり、それについてのクレームを執拗に店側にぶつけてきたそうです。
ただし、経済困窮者のカネ目当てのクレームというのも確かにあるようで、こちらの対策も欠かすことはできません。
著者が勤めていたデパートでは、当時は販売員もベテランが多く、クレーム発生時の対応も慣れたものでそこに付け込まれての問題発生というのも少なかったそうですが、それでも時たま対応不良でそれを原因としてもつれたクレームというのもあったそうです。
その点についての謝罪は誠心誠意行うこと。ただし、それ以上の金品での解決と言うことは当時は絶対に行わないと言うことで社内で統一されていたそうです。
このあたり、企業によっては面倒がってすぐに金品解決と言うところもありそうです。
本職?のクレーマー、強請り・タカリ、半ばヤクザという人たちも多数相手をしてきたようで、その特有の手口と言うものにも通じていたそうです。
店員に告げるのにわざと曖昧な言い方をして、店員がどういう対応をしてもその反対側で難癖をつけて問題を大きくするというのもよくある手口で、それが出てくると相手がどの程度のクレーマーかということも分かったとか。
最後に、対応の心得がまとめられています。
なかなか参考になりそうです。
1.非があれば真摯に謝罪する。 2.お客様の申し出は感情を抑えて素直に聞く。
3.正確にメモを取る。 4.説明はあわてず冷静に考えてからする。
5.現場を確認する。 6.対応は迅速にする。
7.一般客をクレーマーに仕立てない。(これは特に重要でしょう)
8.苦情対応は平等に。
著者は、クレーム対応部署に配属されて最初はどうしても「店側の立場」でしか見られなかったそうです。
1年ほどして、ようやく店と客との中立の立場で見ることができるようになりました。
さらに、2年が経って「顧客側に立って」見ることができるようになったそうです。
そうなると、不思議な事にほとんどのクレームは電話だけでも解決できるようになったとか。
なかなか意味深い話です。
著者はデパート退職後、他の業界でのクレーム対応指導と言うこともするようになったのですが、特に問題が大きいのが医者や教員の世界だということです。
彼らは、接客業という意識も少なく、普段は先生先生と持ち上げられるだけなので、いったんトラブルが起こるとどうしようもなくなってしまうようです。
そこで、本書にはお医者さん向けに特別にクレーム対応コラムも欄を設けて説明されています。
確かに現代はクレーム社会となりつつあります。
学校に寄せられたクレームには実際に次のようなものがあったそうです。
「窓ガラスを割ったのはそこに石が落ちていたのが悪い」
「怪我をした自分の子供を、なんであんな藪医者に連れて行ったのか」
「学校へ苦情を言いに来たが、会社を休んで来たから休業補償を出せ」
こういった苦情は、プロの苦情対応者でも困るような内容です。これを苦情対応に慣れていない学校の先生たちに処理しろと言っても難しい話です。
やはり、ある程度は様々な苦情というものについての知識というのも必要になってきそうです。
となりのクレーマー―「苦情を言う人」との交渉術 (中公新書ラクレ)
- 作者: 関根眞一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 新書
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