爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「護身の科学 あなたと家族を暴力から守る!」毛利元貞著

著者の毛利さんは「暴力分析コンサルタント」ということですが、かつては東南アジアの紛争地帯で傭兵として参戦した経験があるということで、それを活かし活動しておられるということです。

 

暴力に悩む人々の相談にものっているそうですが、現在の日本は殺人や暴行などの暴力というものに対しての認識が間違っており危険を呼び起こすことすらあるようです。

 

著者はかつての傭兵経験から、人は誰でも加害者になりうること、そしてそれを誘発するような雰囲気もあること等々を科学的に分析し、加害者の心理分析も行い、暴力から身を守るということを様々な状況で解析しています。

 

ただし、家族や学校での暴力についての章の記載では、子供の心理学などかなり深いところまで入り込んでしまっています。

そのあたりの分析が妥当かどうかは教育学者、心理学者から見れば問題があるかもしれません。

あくまでも暴力犯罪の専門家の意見として見るべきでしょう。

 

 

 暴力の起こりうる状況について語る各論では、職場、家庭、学校、そして殺人事件報道とマスコミの関係について語られています。

 

繰り返し強調されていますが、通常我々が持っている暴力事件についての印象というものは、マスコミ報道によってかなり歪められているというものです。

扇情的な報道が多いのも、マスコミがそれによって視聴率向上(テレビ)、売上部数アップ(新聞等)を狙っているためで、それは必ずしも事件の実情を捉えていません。

 

職場で起きる暴力事件というと、暴力団や総会屋の殴り込みといった事態を想像しやすいのですが、実際はその会社の社員や関係者が怨恨や嫉妬といった感情から事件を起こすことが多いようです。

暴力に走るということは、誰にでも起きる事態なのですが、やはり暴力傾向が強いという人は居ます。

そういった人を雇ってしまった場合、解雇するとしてもそれをかえって恨まれて暴力事件を起こされることもあります。それを避けるためにも相手の立場にたって考えもっとも穏便な方法をとる必要がありそうです。

 

 

家庭での暴力事件では、ドメスティックバイオレンスというもの、そして子供が暴力を振るう状態について語られています。

また、隣近所を巻き込む暴力事件というものも多く発生していますので、その対策というものも示されています。

このあたりの点では、たとえば子供が被害者になる場合もありますが、逆に加害者になる場合もありえます。

それをどうするかということを論じると、どうしても、しつけ論、教育論となり、本書もそこに踏み込んでいます。

体罰は必要悪」とも書かれていますが、このあたり教育専門家でしたら別の意見もありそうです。

 

 

学校での事件では、「不審者対策」というものが取り上げられています。

しかし、著者のみるところ現在の学校の「不審者対策」というものは非常に偏っており実効性に乏しいもののようです。

防犯カメラや校門の閉鎖、警察への非常連絡等の対策が取られていますが、その効果は疑問が多いようです。

防犯カメラなどは単に記録をするということで抑制効果を狙うのですが、子供相手に危害を加えようという犯人は「死刑になりたい」という確固たる信念をもっている場合も多々あるようです。こういった相手には何の効果もありません。

こういった点でも、「暴力を振るう側の意識に立って考える」必要がありそうです。

警備員を雇って常駐させる場合もあるようです。しかし、こういった警備員も専門の教育を受けた人でなければかえって間違った対応で相手を刺激してしまう危険性もありそうです。

 

 

このような、身近な危険を回避するには、各自が「直感」を大切にして未然に防ぐことが必要になります。

これから暴力を振るおうという人間には必ずなんらかのサインが出ているはずです。

それを感じ取り、すぐに離れるにはその直感がなければならないのですが、実はこういった直感を鈍らせる働きをしているのが、現在のマスコミ報道だということです。

 

そういった事件が起きた際の報道では、ありふれた類型化が横行し、本当の危険性を隠してしまいます。

また、報道が過熱することにより犯罪予備軍の者たちを刺激することにもなります。

さらに、犯行の手口を報道することが「こうすれば犯罪が成功する」ということを伝えていることにもなっています。

言わば、犯罪予備軍に入れ知恵をしているようなものです。

その結果、同じような事件が続発することにもなります。

 

各所にやや踏み込みすぎという描写もあるようですが、やはり参考になるものが多かったと感じました。

著者はかつて傭兵として戦場に立った経験があるということで、「人を殺したことがあるか」と聞かれることも多いようです。

それには答えないということですが、やはりあるのでしょう。

戦場でも兵士が皆平気で敵を殺していたわけではないそうで、第2次大戦当時のアメリカの陸軍の調査では「敵に向かって発砲した兵士は20%」であったそうです。

残りの80%は当たらないように撃ったということです。

しかし、それでは困る?ということで人間性を壊すような訓練方法が取られ、ベトナム戦争ではその割合が90%にまで上げられました。

その結果、退役後に重い心理障害を発症する元兵士の割合も増えたそうです。

 

平凡な生活の自分にとってはまったく想像するしか無い感覚ですが、犯罪被害に合わないということも大切な考え方なのでしょう。

 

護身の科学

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