小島正美さんが連載されている、Food News Onlineでは食品関係の話が中心ですが、今回は「マスコミの作り出す定説」という話です。
小島さんは長く新聞記者として活躍してきましたので、こういった話題には強く反応するようです。
やはりいくつも自戒すべき記憶を抱えているのかもしれません。
オランダの若きジャーナリスト、ルトガー・ブレグマンという人の書いた「希望の歴史・人類が善き未来を作るための18章」という本の中で興味深いことが書かれていました。
この本には様々な心理学上の定説を洗いなおした結果と言うものが書かれています。
その中の一つ、「傍観者効果」というものがあります。
1964年にニューヨークで起きた殺人事件から出たものですが、若い女性が殺された現場近くに38人もの傍観者が居たにも関わらず、誰も何もしようとせずに彼女は殺されてしまった。
誰もが「傍観者」となってしまい、誰かがするだろうという心理に陥ってしまったということで、有名な話で私も別のところで見たことがあります。
しかし、この本によれば事実はかなり違うものでした。
まず、「38人の傍観者」という数字もあやふやなもので、本当に目撃者がそれだけ居たのかも怪しいものです。
さらに、少なくとも2人の隣人が警察に通報し、その一人が現場に走り出て被害者を抱きかかえ、彼女はその人の腕の中で息を引き取ったというのが真相です。
その隣人は新聞記者に対してそう話したのですが、記者の方が「大都会の無関心」というシナリオに固執し、隣人の話も脚色してしまったそうです。
さらに、数日後に怪しい男が出入りしていたのを隣人が警察に通報したらその犯人であり逮捕されたという後日談もあるのですが、それも全く報道されませんでした。
このように、マスコミは往々にして出来上がったシナリオに沿った話だけを報道し事実を曲げても構わないと考えているかのようです。
マスコミの一般的な傾向には注意すべきでしょうが、この本の著者のように定説にも挑戦しようとする人も居ることは力づけられることでしょう。
こういった例はいくらでもあるようで、小島さんはその中からHPVワクチンの副反応の報道について触れています。
ひとたび、副反応は怖いという例が報道されるとそれに沿った事例ばかりを追いかけ、それ以外の話は無視するようです。
こういった報道の特性というものは認識しておくべきでしょう。