この本が出版されたのは1995年12月、1月に阪神淡路大震災が起きてすぐのことですので、活断層によって起きる内陸型地震の怖ろしさを知らぬままに被害を受ける人々の多いことを、活断層研究者の著者が危機感をもったのだと思います。
東日本大震災のようなプレート境界型の地震は周期的に起きることが知られていますが、内陸型の地震はその周期が数千年以上と長いことが多く、なかなか危険性を意識させることが難しいようです。
しかし、プレート境界型と比べてマグニチュードは小さいことが多いとは言え、都会の真下で発生するということもあり得るために被害が大きくなる可能性があり、決して軽視できるものではありません。
本書はそのような活断層というものを概観できるように解説されています。
最初に、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)の例を取り断層と地震の関係というものを具体的に説明されています。
次に、全国各地に著者たちが実際に調査に出かけて断層を見つけ、その地震発生との関わりなどを調べていった研究のあとを辿っています。
トレンチ調査という断層調査の基本となる方法についてもここで触れられています。
なお、昔は研究者が実際に歩いて探すしかなかったのですが、最近では航空写真などを用いて効果的に調べる方法もあるようです。
それでは断層というものがどのようにできるのか、どう動くのかといった総括的な解説がその次の章に記述されています。
断層が活動しているかどうかの判断をする基準となる年代は第4紀とされています。
この始まりは諸説あるようですが、だいたい200万年前くらいからということです。
断層の活動をこれ以降で考えるというのは、便宜的なようですが、現在見ることができる地形というものは大体その年代以降に出来上がったものということで、判断できるものになっているそうです。
断層の活動は「間欠性」を示すという特徴があります。普段はじっとしていて、突然一気に動くというものです。
世界にはまったく地震を起こさずに少しずつずれていく断層もあるのですが、日本の場合は必ず地震を起こす活断層です。
ズレの速さは断層によって大きく異なります。
丹那断層では50万年に1000mでした。断層によってはズレの量が同じ時期に10分の1,100分の1というものもあります。
最も激しい動きの断層を活動度A級と呼び、これは1000年に1m以上動きます。
中央構造線と糸魚川静岡線がこの中でももっとも大きく動いているもので、1000年あたり8-9m動きます。全国では100程度の断層があります。
活動度B級は、それより1桁小さいもの、すなわち1000年に10cmから1m程度です。これは800ほど。
活動度C級はさらに1桁小さいものです。
ズレが限度を越えると地震となって一気に動きます。このズレの大きさはこれまで観測されたものの中で一番大きいもので10mでした。1857年のロサンゼルス近郊での地震で観測されています。
日本では最大のものが濃尾地震の際の8mというものです。他のものはほとんどが3m未満のもので、阪神淡路でも2mでした。
なお、地表まで断層のずれが出現するのはある程度の規模の地震に限られ、M7以下で出現するのは珍しいようです。
なお、この地震によるズレの大きさと1年あたりのズレの堆積量を計算するとだいたいの地震の周期も分かるということになります。
これで昔の地層を調査して地震の起きた年代とそのズレの大きさから次の地震の起きる可能性を推定するということが行われています。
本書後半部分は全国各地の活断層の解説が書かれています。
やはり興味は、この本出版の後に起きた地震の原因断層がどのように書かれているかということですが、まあ大体は正確なんだろうなと思います。
九州の記述では、「九州中部は日本列島の中でも特異的な地帯」であるとされています。
東西方向の正断層が並走しているという特徴があり、日本ではここだけだそうです。
なお、日奈久断層は南九州と分類されており、長さが長いので引き起こす地震は最悪の場合M7以上になると書かれていました。
熊本地震は日奈久断層ではありませんでしたが、この予測は当たってしまったことになります。
南海や東南海、東海など、プレート境界型の巨大地震の危険性はよく言われますが、内陸型の活断層地震もその震源域では十分に大きな被害を引き起こす危険性がありそうです。
やはり、良く知って対策をするということになるのでしょう。