編著者の牧野さんは日本大学名誉教授にして労働総合研究所顧問、したがって、全労連の思想と共通のものが多いのでしょう。
本書はアベノミクスと呼ばれる安倍政権の経済政策などがほぼ崩壊に直面しているとしてその原因を論じるというものです。
牧野さん他、大学教授など7人が様々な方向から1章ずつ書いています。
この人達は労働総研の経済分析研究会のメンバーということで、おそらく政治的立場も同じような方々と思います。
とはいっても、だからこのような議論は読む価値も無いなどとは考えていません。
むしろ、本書のほとんどについて賛同できることが多いと感じます。
ただし、どうも執筆者の皆さんが原稿を寄せたもののその連絡が緊密というわけには行かなかったのか、各章の間で同じようなものが取り上げられている例が多く、少々煩雑に感じられました。
なお、本書の主張は最近読んだ植草一秀さんの「日本の真実」という本のものとも近いものです。
しかし、植草さんの論調と異なるところは色々と在り、特に気になったのはアベノミクスには日本人の多くが反対の態度を表明し、デモなどに参加していると牧野さんが書かれているところです。
あまりにも楽観的な記述には違和感すら感じます。
このような納得できる議論がありながら、相も変わらず経済最優先という嘘ばかり言う安倍内閣をなぜ選挙で勝たせているのか、そちらの国民側の問題が大きいと思います。
アベノミクスが経済第一と言いながらそれを隠れ蓑にして集めた議席で軍事化を進めているというのはこれまでにも私がブログでも書いているように歴然としているものです。
これについての議論は繰り返しになるので略します。
友寄英隆さんが総括している「アベノミクスの国民的総括」がよく言い尽くしているようにも感じます。
アベノミクスは日本経済の二極化を激しくした。
トリクルダウンどころか、「トリクルダウン・ペイン」をもたらした。
円安と株高は日本経済の成長の現れではなく、金融緩和・年金基金の投入・日銀の株購入による「官製相場」であり、GDPがマイナス成長にも関わらず株価だけが上昇した。これにより日本経済が「株式資本主義化」してしまい、海外の金融変動や投機的資本の活動に弱い体質になってしまった。
すべて「ごもっとも」です。
生熊茂実さんの指摘は意外でしたが納得できました。
円安により輸出大企業は膨大な利益を手にしましたが、その実態としては輸出量も生産量も2010年と比べて減少しています。
これは為替差益による利益拡大に過ぎず、すでに大企業の海外生産拡大が進んでいるために国内生産には反映していません。
したがって、中小企業や下請け企業には仕事が回っておらず多くの労働者や中小企業には「アベノミクスの恩恵は来ない」という構造であることが明らかです。
まあどなたの議論も当然としか言いようがないものであり、その意味では想定内の内容でした。しかし、きちんとしたデータで裏付けされたものであり、これまでの思考を確認できるものでした。
安倍の退陣を現実のものとするためには何をしたら良いのか、このような現実の数字を見せるだけでは足りないのか、そういった疑問には答えるものではなかったのが残念です。
「市民と野党の共闘というすばらしい運動形態が全国に広がっている」などという現実認識ではどうしようもないことは明らかです。