爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「家族の衰退が招く未来」山田昌宏、塚崎公義著

経済の停滞が長く続いており、その出口はなかなか見えないものになっています。

また、「家族」というものの変質も大きな社会問題化となっており、その実態や影響が不安視されるところです。

 

しかし、経済学者と社会学者というものは学問の分野が相当異なるためにこれらの課題を共同で研究するということがこれまでは見られず、その関連ということを取り上げられることも少なかったようです。

少し考えてみても、結婚し家庭を構える若者が減れば家具家電などの消費も減少するでしょうし、結婚しないまま親と同居する子どもが増えれば経済的にも沈滞するでしょう。

 

こういった点を、「パラサイトシングル」という言葉を生み出し研究を続けている社会学者の山田さんと、経済学者の塚崎さんが共同して検討してみようと言うのが本書の目的です。

実はお二方は中学・高校の同期生ということで、卒業後は特に交流があったというわけではなかったのですが、同窓会で再会して話が弾み、こういった取り組みをやってみようと言うことになったそうです。

 

第2次大戦後、焼け野原から復興し、さらに高度成長を果たした日本では、経済も大きく発展しましたが実は家庭というものもそれ以前とはまったく違う様相を見せてきたようです。

戦前には多くの人々は農村で自家の農業に従事し、一家を構えられるのは長男だけでそれ以外の子供は家庭も持てないというものだったのですが、戦後には都会での商工業に従事するために農村を離れ集団就職で上京しました。

彼らは低賃金であっても曲がりなりにも世帯を持つということになります。

すると、そこで家庭というものに対する消費が発生します。それが当時の旺盛な需要の要因であったともいえます。

このような「戦後家族モデル サラリーマン主婦型家族」というものの形成と成熟の時代が続き、それを前提として社会全体の仕組みも作られました。

年金・就職・結婚・育児などにまつわる制度というものはこれに適合するように作られています。したがって、それが崩れ共働きが普通になり、正社員も少なくなり、結婚しない者も増加している現在ではその制度との不適合が大きくなるばかりなのは当然です。

 

バブル崩壊後、経済が長期低迷を続けている原因は、需要不足ということになります。

需要を活性化させるために政府が長く続けた景気対策(借金政策)は国の財政への不安を増大させるだけの結果しか生みませんでした。そのために年金破綻の不安からそれぞれが貯蓄などに資金を回せば、ますます需要が減少するという悪循環が生まれました。

ゼロ成長が長く続いたために、日本的経営と言われたものも変質してきました。

年功序列型の長期雇用が減少し、非正規雇用が増えました。これにより、社員の会社に対する忠誠心が低下したことは間違いのないことです。

さらに「成果主義」などという中途半端なことをしたおかげで社員が協力しあって仕事をするということも減ってしまいました。

このような長期停滞の結果、閉塞感が蔓延しています。

 

家族というものも変容してきています。

家族形成力ともいうべき力が衰えてきました。

日本では英米などと異なり、成人した子供は必ず家を出て一人暮らしをするという習慣がありません。家を出るのは結婚する場合か、進学就職で家から通えないところに転居した場合です。

そのために、結婚しない若者は親と同一世帯に住み続けることになります。これが「パラサイトシングル」です。

これを続ける限りは住宅や家電製品は不要ですので消費は増えません。

それでも皆が結婚する時代にはいつかは結婚して家を出て行ったのですが、現在では未婚化率が上昇しているために、なかなか家を出る事になりません。

その子どもが正社員として働いていればまだ良いのですが、往々にして非正規労働しかできない場合もあります。そうすると、世帯の収入も親の年金に頼るということに成りかねません。

親が生きている間はまだ良いんですが、死んだらすぐに子どもの生活が成り立たなくなります。

この、35歳から44歳までの未婚の子どもが同居している世帯がほぼ300万世帯あるそうです。これがどんどんと危機的状況に向かっていきます。

 

しかし、この後しばらくすると現在の需要不足期から黄金時代を迎えるそうです。そこがちょっと不思議な論議ですが。

その先はもういいか。

 

英米・北ヨーロッパ型の、成人した子供は独立させるという社会であれば未婚率も下がり、出生率も上がるということです。

そこでは女性も一人で独立生活をしますので、当然ながら女性の社会進出は不可避であり、しかも出産・育児に対する保護助成も十分に行われる必要があります。

そのような社会の変化が起こせれば経済活性化と少子化対策も好転するということでした。

 

戦後すぐというと、私の幼児期の記憶に残る社会ですが、たしかにそれから現在まで大きな変化をしています。それが経済状況の変化とも密接に結びついているのは間違いのないことです。

どちらが変わっても相互に影響し合いながら変化していくんでしょうが、できれば理想に近づける形で変えていきたいものです。

決して「専業主婦は日本の美徳」なんて言う一部保守系議員たちのような意見などに従ってはいけないのでしょう。