熊本出身の在日韓国人2世の姜さんですが、最近熊本県立劇場の館長に就任とのことです。
とはいえ、本来は政治学者であり数々の政治問題、外交問題などへの発言も繰り返したおり、本書もその方面のものになっています。
出版は2003年、アメリカのイラク戦争開戦の直後ですが、そこまでの10年ほどにあちこちで発表された文章を集めたということです。
ちょうどその頃、小林よしのりの「戦争論」という本が流行し、他にもナショナリズムを前面に押し出した論者が急激に力を増していました。それに危機感を覚えてこのような考察を数々発表されたのでしょうか。
1999年には国会で国旗・国歌法制定、通信傍受法を含む組織犯罪対策法、国民にコード番号をつけ管理する住民基本台帳法、等々思想統制につながると見られる法律が次々と制定されていきました。
ネオ・リベラリズムと言われるっサッチャーやレーガンの政策を導入したのは実は大平内閣が始めだったそうです。大平正芳というと急死したせいで選挙に勝てたというイメージしかなかったのですが、意外でした。
その後、中曽根・小渕と発展していき小泉で爆発します。
日の丸君が代というものは戦前でもはっきりと法的に制定されたものではなかったのですが、この国歌・国旗法で初めて法的根拠を得ました。
これが強化を目指すのは「象徴天皇制」ですが、これは実は第2次大戦後にアメリカの主導で作られた、日本史家のジョン・ダワーが名付けたという「談合オリエンタリズム」というものに過ぎないということです。
それに「純国産」であるかのような飾り付けをしていったのが吉田茂などの旧体制の中の天皇重臣的な人々だったのです。
日本で新たにナショナリズムが吹き出す契機となったのは湾岸戦争の時に巨額の戦費を拠出しながらまったく感謝もされなかったという屈辱にあったそうです。
一片のプライドが影響しているのでしょうか。
本書の中には戦前に日本帝国臣民として扱われ、心の奥底から天皇の臣下として忠誠を尽くすことを望んだ朝鮮半島出身者についても描かれています。今となっては何重にも被害を受けた人々としか見えないのですが、当時はその人達もそれが為すべきことと考えていたのでしょう。
それを見ればナショナリズムというものなど信じられないというのも当然かも知れません。