爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「技術者のための経営学」大坪檀著

この本も内容の紹介の前に、本の購入から読書をめぐるあれこれから記していきたいと思います。

本の中に挟んであった栞代わりのカード型カレンダーから、買ったのは1983年と考えられます。当時は結婚してすぐの30歳目前といった年頃でした。会社には入って5年ほどでようやく下働きからは卒業できたというところです。
まさに工場勤めの技術者予備軍(技術者ともいえませんでした)、しかし大学卒ということで管理ということも意識はしていました。
そんなわけで何か経営といったものを勉強したいと考えてこの本を購入したものと思います。とはいえ、内容は難しく自分の現況とあまり接点がないように感じられ、ほとんど記憶にも残らないまま本棚の隅に埋もれていました。かえって中間管理職まで務めて卒業した今、読み返してようやく腑に落ちた内容だったように思います。

上記のように買ったのは83年と考えられますが、発行は82年と本の奥付に書いてあります。しかし、それが第25刷とのこと。実に初版は昭和41年6月の発行でした。最近の本ではあまり見かけなくなったような重版回数ですが、以前はかなりそういった例もあったようです。
著者の大坪さんは本書の著者紹介の欄にはあまり詳細が書かれていませんが、調べてみるとその後は大学の教授なども歴任し、学長も勤められたようです。
本書の執筆時にはまだ40歳ほどだったと思います。大学卒業後当時は珍しかったアメリカへの留学で、経営学履修や実際の企業の視察も重ね、当時としては最新の経営管理の思想を身に付けて帰国されていたと思います。
そのせいか、今となってはかなり違和感を覚えるのですが、GMクライスラーが経営に管理技術を応用して合理的な進め方をしているとして例に採られています。その後の経過を見ると今となっては夢のような話ですが、当時の日本ではきちんとした経営自体ほとんどなかった時代ですので仕方のないところでしょう。

最初の部分から、「事務屋」「技術屋」といった用語で語られているのも、今となっては古色蒼然というところですが、確かに私などが入社した頃もそういった感覚でしたのでそう遠い話ではないのかもしれません。
本書で語られている「理学士および経営学修士」という言葉もその後華やかに取り上げられるようにはなりました。しかし、現状ではそのような「科学的経営学」というのもすでに過ぎ去った話のようにも感じられます。
手法として紹介されている「IE」「VA」「QC」「PERT」などもその後のいろいろな場面で遭遇することになりましたが、この本を最初に読んだ当時にはまったく影も感じられませんでした。

そのようなわけで、長かった会社勤めの歴史を思い起こさせてくれたような本書の再読でした。