爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「凍った地球 スノーボールアースと生命進化の物語」田近英一著

地球はかつて全体が凍り付いていたというスノーボール仮説というものはつい最近になって知りましたが、実際には初めて提唱されてからわずか20年しか経っていないもので徐々にそれを裏付ける証拠も出だしてきたというのはここ10年程度の話のようです。
しかし、全地球が凍り付いてさらにそれが溶けてしまったということは気象の変化という点でもまたその時の生命の存在という点でも大きな問題でありよく知っておくべきことだと考えられます。

著者の田近さんは地球システム科学が専門であり、スノーボール仮説を確立するための研究にも携わってきたという、この解説をするためには最適の方のようです。本書の記述も最先端の研究者ならではの臨場感あふれたものになっています。

スノーボール仮説は1992年にアメリカのカーシュビンク博士により発表されたということです。その端緒は氷河堆積物としか見られないものが熱帯地域の地層からも発見されたことからだそうです。それが原生代の後期の約7億年前のものということで、その時期のものは世界中で見つかってきます。大陸移動や地軸移動といった要因を考え合わせても、どうしても赤道近くでも凍りついていたと見られるというところから、全地球が凍りついたという推論に至ったそうです。
もちろん、全世界的に反論が殺到しましたが、論争の末に大方の反論は否定できたということです。

地球誕生の最初の頃には大気中には高濃度の二酸化炭素が存在する一方、酸素はほとんど気体では存在せず高温でした。しかし太陽光線自体の強度は今ほど強くは無かったものが、徐々に強まってきているそうです。
空気中の二酸化炭素が反応して固定化されるということは、現在では生物の働きが大きな部分を占めますが、生物のいない状況では大地が徐々に風化することでカルシウムなどが粉砕されてそれと反応することで二酸化炭素が固定化されてきたようです。
最初のうちはほとんどが海に覆われていたためそのような反応も進まなかったのが、造山運動が起こり陸地が形成されて岩石が露出し風化を受けるようになりました。そのために大気中の二酸化炭素濃度はどんどんと低下し、その結果温室効果が低下して地上の気温も低下したそうです。

一方ではプレートテクトニクスによる造山運動は火山活動も引き起こしますが、その噴出物には二酸化炭素も多く含むためにその濃度を減らすばかりではなく増やす作用もあるようです。
これがスノーボールからの回復につながったそうです。

全地球凍結というのは、6−7億年前の1度だけではなく、原生代初期の約22億年前にも起こっていたようです。この時の凍結はその原因にも融解にも生物の関与はなく、次のものとは原理が相当異なっていたようです。

生物の登場と進化というものは7億年より以前に始まっており、生命は全地球凍結という試練を潜り抜けたのかというのが、強力なスノーボール仮説への反論になりました。その頃にはすでに真核生物が登場していたということですし、熱水の中でも生きられるような古細菌とは耐久性も異なり複雑でデリケートになっていますので、そのような過酷な環境では生き残れないのではないかというのがその主張でしたが、生物の進化の時計がずれているのではないかとか、部分的に水が溶けた環境があったのではといった妥協案で並立が可能ということになったようです。

それよりも、全球凍結からの回復の過程で劇的に酸素の増加が見られるとか、気温が急上昇するとかの現象が起こることで生物の進化が促進されたという見方もできるようです。

全球凍結という事態になっても火山活動で噴出された二酸化炭素が徐々に増加し、大気中の二酸化炭素を固定する反応は氷で覆われていたためにほとんど起こらないということで、大気の二酸化炭素濃度が上昇していき、ある時点で一気に氷の融解が起こったそうです。その後はかえって高温状況になってしまいました。
その後はまた大地の風化作用も強くなり、また生物の二酸化炭素固定の作用も起き、かなり低い二酸化炭素濃度で安定するようになったということです。

地球の気候変化というのはなかなか激しいものだったのかもしれません。