爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「データの罠 世論はこうしてつくられる」田村秀著

著者の田村さんは自治省から新潟県などに出向した後、新潟大学に移った方で、地方行政が専門のようです。
様々な世論調査が行われ、それが行政の方向性にも相当な影響を与えていますが、それらがいかにいい加減なものかというところを論じています。

本書は2006年の出版ですので話題もその頃までのことになりますが、前回の消費税引き上げの際の世論調査では新聞によるものでもその質問文設定があまりにも誘導的であることは当時も問題にはなっていましたが、結局それ以上のことにはならなかったようです。こういったことは引き続き議論に上げていかなければならないのでしょう。
答があいまいなものになるというものも問題で、賛成か反対かと回答する人が少なくても「やむをえない」という選択肢を設けることで消極的でも賛成といったくくりに入れられるということも出てしまいます。

また、調査手法にもいろいろあるようですが、それによって解答の回収率が大きく変わってきますがあまりにも低いようなものはその結果もまともには使えないということです。
ただアンケート用紙を送りっぱなしで返送されたものだけを集計するような方法では回収率が上がるはずもないのですが、対象数を多くしたということで満足してしまっている担当者もいるようです。しかしこれは少数でもきちんとした統計的な抽出法で回収率を高くするように配慮された調査と比べるとその結果の有効性には大差があるそうです。
回収率は少なくとも60%は越えないと意味がないとも言われているそうですが、20%台などというものでも堂々と結果公表という例も多数見られるとか。
「抽出法」にも不完全な例があるようで、当然のことながら「無作為抽出」でなければ有効性は落ちますがそこが理解できずに作為抽出で済ませてしまうということも良くあるようです。ある県の行政に関する調査では住民票からの無作為抽出によったデータと公募で選んだ人への質問のデータを何の注釈もなく混ぜてしまったということもあったとか。

インターネットでのアンケートというのも多いようですが、これも興味のある人しか見ないということから無作為抽出の対象者への質問とはまったく意味が異なり結果も相当変わってきてしまうのが当然なのですがこれも理解できていないことが多いとか。

家計調査をしてその結果から「○○の消費量は何県が一番」といった話はよく出てきています。これも自治体にとっては話題づくりや産業活性化などの観点からかなり広まっているようですが、家計調査自体がかなり難しいものであることもある上に、ほんの一回だけのデータで日本一と言ってしまう例もよくあるようで、まあ大した意味のあることでもないのですが問題も満載です。

もうちょっと大きいものでは様々な産業指標などの「都道府県ランキング」なるものが非常に多く出回っており、これも特に各自治体の関係者などでは大騒ぎの元にもなっていますが、これも指標の作成法、データの扱い方など科学的に見れば相当問題を含むものがあり、例えば「豊かさ」などといってもどの項目にどのような重みをつけるかと言うのはまったく恣意的なものであり評価者の考え方がもろに表されるところでしょう。所得金額だけならまだ客観的ですが、持ち家比率や通勤時間や住居広さなど、豊かさと言えば豊かさですがどの項目も同率の重みでは妥当とは言えないでしょう。しかしこういったものが通用しているようです。

経済効果という言葉も何かあるたびに持ち出され、その金額だけが大きく報道されますがこれもいい加減なもののようです。直接効果はまだしも、間接効果というのも様々な観点から計算に入れて金額を膨らませています。しかし、「マイナス効果」というのも当然なんにでも付いてくる物でしょうが、これを正当に判定することは少ないようです。とにかく何でも積み上げて大きく見せればよいのでしょうか。

日本人の英語力が低いと言うことを言い立てるのにTOEFLの点数を持ち出すと言うこともよく行われていますが、これもデータとしては不十分なもので、単に点数だけを取り上げてもどうしようもないようです。参加人数だけを見ても相当違うように、受験料の140ドルというのが日本人にとってはまだ我慢できても、まったく払うことのできない国が多くそういった国々では受験できる人自体が相当な上流階級だけで英語力が高いのも当然なのだとか。
日本のように猫も杓子も受けられれば、かなり点数が低いのも仕方の無いことなのかも知れません。

いろいろな場面でもっともらしいデータの数字が出てきて、主張の信頼感を高めているということは至るところで見られる光景ですが、ちょっと疑ってかかった方が良いようです。