少し古くなった本ですが、状況はまったく改善する兆しも無いようです。
平成14年(2002年)に当時の小泉首相が政治家や官僚があまりにも安易に外来語を使っているのを批判したそうですが、その動きを受け国立国語研究所が「外来語」委員会を設置し、現状調査と「外来語言い換え」の提言を行ったということです。
この本ではその成果を分かりやすく説明しています。
調査期間は2002年から3年ほど、はじめに3000人ほどの人を無作為に抽出し、実際に訪問して面会しての調査です。
予備調査の結果、頻繁に登場するものの多くの人に理解されていないと見られた候補語350語に、現状では比較的よく理解されていると思われる対照語50語程度を加え、「この語を見たことがあるか(認知度)」「意味が分かるか(理解度)」「自分でも使うか(使用度)」を聞き取るというものです。
なお、調査対象の年齢も非常に大きな要素となります。
このように調査をした言葉の中から、176語について、理解度(全年代・60代以上)、意味説明、用例、言い換え例、その手引きを掲載しています。
まあ、ほとんどの言葉は頻出しているものであり、結構使っているというものですが、それの理解度があまり高くないということには驚くほどです。
アウトソーシング、アクションプラン、アジェンダなど、普通に使っているような言葉でも60代以上だけでなく全年代でも理解度25%以下に分類されています。
なお、このほとんどは英語由来なのですが、英語のもとの意味とは違う意味で使われてしまっているというものも多いようで、バーチャルとは原語では「表面上は違うが実質そのものである様子」を意味するのですが、日本では「現実そっくりに作られあたかも現実世界であるかのような様子」に限定されて使われているということです。
こういう状態は英語を用いて意思疎通を図るという意味では阻害にあたるのでしょう。
また原語では多くの意味で使われているにも関わらず、日本語としてはそれぞれ別のものを表わすのに使われてしまい、原語の意味のつながりが意識されないものもあります。
シフト(Shift)は切替、転換、動詞として移行する、切り替えるといった意味ですが、それを個別の状態を示すために使ってしまい、「車のシフトレバー」「野球のバントシフト」「職場の勤務シフト」などという使用例があります。
これも安易にシフトと表わすのではなく言い換えが必要でしょう。
なお、このような言い換え語の提唱には多くの批判も寄せられたようで、それも紹介してあります。
中には「言い換えてしまうと意味がずれてしまう」といった批判もあり、それは確かにそういった面もあるのですが、それ以上に「外来語のままでは多くの人が理解できていない」ということを軽視しているのでしょう。
なお、外来語使用が多い分野という調査もあり、ファッションや芸能・スポーツといったところは望んで使われている面もあるかと思います。
また、医療関係やIT関係はあまりにも技術革新が速すぎ日本語に言い換えする暇もないという点もあり、また関係者はそれで理解できている(ただし部外者は疎外している)ということもあるのでしょう。
やはり最大の問題は「政治経済」部門であり、それも行政側などが国民の理解度を無視して使っている現状でしょう。
聞いている人間が理解できていないような政治の説明などはすぐにでも改める必要があるのですが、それが分かっていないのでしょうか。
国立国語研究所が力を入れて実施した調査だったようですが、あまり効果はなかったようです。