爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「名字のヒミツ」森岡浩著

日本人の名字は非常に種類が多いと言われていますが、それをきちんと調査したということはあまりないようです。

名字研究家という森岡さんは、最近はNHKのテレビ番組「日本人のおなまえ」でもお見かけしますが、なかなかしっかりと研究をされているようです。

 

名字に関しては様々な話が飛び交っていますが、結構いいかげんな話もあるようです。

日本人の名字は世界一多いという話もありますが、実際はそこまではいかないようで、アメリカは各地からの移民で出来上がっている国なので名字種も非常に多いとか。また、フィンランドも人口は少ないながらかなりの数があるそうです。

 

「名字」と「姓」「氏」というものは現在ではほとんど意味の違いが意識されていませんが、元は別のものでした。

天皇家から与えられたものが「姓」で源、平、藤原などがそうですが、それに対し平安時代後期以降に支配した土地などの名前を取って付けた通称が「名字」です。

室町時代まではその両方を意識していたのですが、戦国時代に姓などは不明な成り上がり武士が出てくると混乱してしまいました。

さらに、明治時代にすべての国民に氏姓を届けさせて戸籍を作った時、姓を届けたものもあり、名字を届けたものもありということでバラバラになってしまったそうです。

 

なお、明治時代に平民はそれまで無かった名字を作って届け出たと思っている人もいますが、実際はほとんどの庶民は江戸時代にも名字を持っており、それを明らかにしただけのようです。

 

本書では海外の名前はほとんど触れていませんが、名字と名前が1つずつという日本の方式は必ずしも一般的ではないとしています。

名字など無いというのが東南アジアの国々でしたし、モンゴルでは父親の名前と自分の名前を続けて呼びます。

また欧米でもミドルネームというものが一般的のようです。

 

「名字ランキング」というものがありますが、それについても簡単に説明しています。

最も早く発表されたのが「佐久間ランキング」というもので、昭和47年に佐久間英さんという方により作られました。

データソースは各種の名簿類だとか、サンプル数もあまり多くなくまた大都市のものが多かったために正確度には欠けたようです。

このランキングで鈴木が一番としたために、その後もそう信じている人が多くなりましたが、他のランキングでは佐藤が一番となっています。

しかし、佐久間氏は「実在の名字」にはこだわっていたということで、芸名や筆名、存在しない名字は極力排除するようにされていたそうです。

 

昭和62年に第一生命が自社の契約者約1000万人のデータを分析したのが「第一生命ランキング」と呼ばれるものです。

はじめてコンピュータを使って整理されたランキングなのですが、当時のコンピュータはまだ非力で、漢字処理ができずにすべてカナ表記でした。そのため、「安倍」「阿部」「安部」はいずれも「あべ」として同じとなっている一方、「山崎」は「やまさき」と「やまざき」で別扱いとなっているということがあります。

また、第一生命の契約者という限られた範囲であり、地域によっては極端に少ないという県もあったようです。

 

平成13年に村山忠重氏が発表したのが「村山ランキング」です。

これは電話帳をCDROM化して発売されたソフトから抽出して独自の解析を行ったものです。

これの欠点は「すべて漢字表記のカウントになっている」ことです。

電話帳にはフリガナがありません。そのため、漢字で書いてあってもなんと読むかは分からないということです。

つまり、「河野」という名字は「かわの」と「こうの」の両方が合算されてしまっていることになり、森岡さんの解釈ではこれは別名字ということなので、不正確になる部分があるようです。

 

村山氏以降、電話帳を用いた名字ランキングは他の人からも発表されるようになっています。

しかし、前述のとおり電話帳には漢字の読みは入っていないと言う問題の他にも、姓名の間の区切りが間違っている場合があることや、そもそも本名だけが登録してあるとは限らないこと、また携帯電話の普及により電話帳に掲載されない人が多くなっているということも増えてきました。

日本では行っていない、国による国勢調査の利用ということが無ければ正確なデータは取れないだろうということです。

 

変わった名字「珍名」というのがよく話題になりますが、これも実際は存在しない「幽霊名字」である可能性が強いようです。

もちろん、一人でも実在すれば「あった」ことにはなりますが「絶対にない」ということを証明することは困難です。しかしどうやらほとんどある可能性がないという名字がその割に話題に上っているようです。

これには、興味本位で本で取り上げたりする出版社の姿勢も関わっているようで、裏付けのないまま本にしてしまいそれを読んだ人が信じるということもあるようです。

「海千山千」(ふるて)とか「千万億」(つもい)といったものはどうやらこういった作った幽霊名字ではないかと見ていますが、「四月朔日」(わたぬき)や「栗花落」(つゆり)という名字は実際に存在していますので、難しいところです。

 

名字の分布でみると、東日本と西日本ではかなり差があるようです。

東日本では「佐藤・鈴木」型としていますが、その2つが特に多く、また斎藤、加藤のように下に「藤」のつく名字が多いのが特徴です。

さらに、特に東北地方では名字の種類が比較的少なく、一つ一つの名字の人口が多いようです。

西日本では「山本・田中」型、その他地形由来の名字が多く、さらに名字の種類が多いと言う特徴があります。

 

また、人の移動が増えて来たとはいえやはり各地方で特に多い名字というものはあるようで、栃木の阿久津、山梨の雨宮、愛知の杉浦、愛媛の越智、熊本の田上・赤星・古閑、宮崎の黒木、鹿児島の鮫島・松元など、特徴的なものは多く挙げられます。

 

名字に関する話題、いろいろと興味深いものでした。

 

決定版! 名字のヒミツ

決定版! 名字のヒミツ