爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「資本主義バカの後始末」永野芳宣著

この本の出版時の2008年には福岡大学客員教授だった永野さんですが、東京電力に長く勤められたあと様々な企業の監査役なども兼ねておられたようです。

資本主義というものが共産主義などに勝利し、さらにIT化などの影響かその暴走振りが激しくなってきて弊害?(決して弊害などではなく本質的なものかもしれませんが)が巨大になってきているようですが、これは”資本主義バカ”というべきような人々のせいではないかと主張する著者がそれを詳述し最後にはその対処策も提言しているものです。

資本主義に限らず、いずれの体制においても”行儀”(マナー)というものはあるのですが、ポスト欧米支配時代といわれるこれからの世界でどのような行儀を守っていくのか、行儀を忘れたような資本主義バカが横行し、金で支配するような傾向が強まる中で、どのように対処していくのかも大問題になるようです。

資本主義の行儀というものが確立していったのはやはり西欧からと考えられるようです。産業革命で拡大した資本主義は徐々に勢力を拡大していきましたが、その中で行儀も確立していきました。
しかし、グローバリゼーションが一気に拡大してしまった現代では市場ルールというものも激変してしまい、IT技術の発展が信用情報というものも価値に変えてしまったようです。
資本主義というものは現代では民主主義と密接に関わっているようですが、民主主義というものは集団の力が対等であるという条件が必要だということです。その辺の条件は本当に成り立っているのかは検討の必要がありそうです。
思想の対立ということが激化してくると暴力に訴えることになりかねず、それが現代のテロ蔓延にもつながっているようでる。

その最大の仕掛け人というべきものがアメリカ合衆国ですが、アメリカはその成立の所期から母体のヨーロッパ各国とは異なる動きを見せてきました。江戸時代末期にペリーが日本にやってきて開国を迫ったことが江戸幕府が倒れたことと密接に関わっていますが、このペリー来日というものも合衆国の戦略として相当周到に準備されたものだったようです。13代フィルモア大統領はペリー日本派遣の1年前に合衆国議会にその件について諮り、承認を受けて準備期間をおいて人材を集め準備をさせたそうです。なんとなく、ペリーが偶然やってきたようなイメージを持っていましたが、とんでもない思い違いでした。合衆国の世界戦略の一つとして行われたものだったようです。

これからの世界に対しての日本人の選択として著者が挙げているのは次の三つです。第一にはグローバリゼーションの要請に完全に乗ってしまい、徹底的に追求していくという方向です。TPP完全受け入れといったものでしょう。第二にはそれと全く逆方向ですがさすがに鎖国はできないので、アメリカと手を切り中国に守ってもらうという方向です。これも危険なのは言うまでもありません。第三としてはその中間でなんとか折り合いを付けていこうというものです。難しいことですがそれしかないとも言えます。
そのために日本がなすべき10ヶ条ということも著者が提言されていますが、詳細は略します。

グローバリゼーションというものが暴走し始めているということは著者の意見と全く同じ感覚を持っています。これがいつまでも続くはずはないとは思っていますが、すぐに終わることもないでしょう。破滅という行く末も有り得るとは思っています。それを避けるために英知を集めるということが必要なのでしょうが、その英知がともすればグローバリゼーションの中での勝利という方向に向き勝ちなのも確かです。