爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「資本主義の終焉と歴史の危機:再読」水野和夫著

水野さんのこの本はちょうど1年ほど前に読み、大きな衝撃を受けました。

その時の書評にはかなりのスペースを割き書き込んでいます。

「資本主義の終焉と歴史の危機」水野和夫著 - 爽風上々のブログ

 

1年前には長く続いたゼロ金利政策を疑問に思い、何かそれを説明できる根拠がないかと思って読んで多くのことを知ったつもりになったのですが、今日ではそれを上回るようなマイナス金利政策になっています。

これはどう考えても資本主義そのものが変質している、あるいは崩壊し始めていると考えられますので、再度この本を読んでみることにしました。

なお、極めて異例のことですがいつもの図書館から借りるのではなく新たに書店で買い求めました。今後も頻繁に参照する機会があるかもと考えたからでもあります。

 

まず、「利子率の低下」ということの意味、これには昨年はそれほど注目していなかったのですが、意味深い記述があります。

利子率の低下は重大事件です。それが何故かと言うと、「金利はすなわち資本利潤率とほぼ同じ」だからです。

資本を投下して利潤を得て資本を自己増殖させるのが資本主義の基本ですので、利潤率が極端に低いというのはすでに資本主義が機能していないということです。

 

ここの部分がマイナス金利政策を見て思い当たったところです。

マイナス金利政策を取れば銀行や貯蓄家が投資に資金を回すというのがその政策の理由になっていますが、そもそも銀行なども投資をしていないわけではありません。企業活動などに資金を貸してその営業を助けているはずですが、それが機能しなくなっているということでしょう。

 

「資本主義の覇権交代」についても記されていました。

中国がアメリカに代わり覇権を取るといった論説も多いのですが、その議論はあくまでも資本主義の枠内での話になります。その枠が崩れかかっている今後は覇権の交代では済まないことになります。

また、21世紀のグローバリゼーションはエネルギーが無限に使えることが前提となっているので、その近代システムが危うくなった今では長く続けることはできません。

 

ここでも近代システムとエネルギー使用が密接に関わっており、その先行きにエネルギー供給減少が来ればシステム自体が不安定化することが示されています。当然のことでしょう。

 

日本の将来について、著者はその姿を示しては居ませんが、「脱成長」が前進するための手段であると言っています。

「ゼロ成長」や「脱成長」というと多くの人は後ろ向きの姿勢と批判しますが、いまや「成長主義こそが倒錯している」のであって、それを食い止める前向きの指針として「脱成長」が必要となるのです。

 

ただし、「エネルギー問題は難問」であるので国内で安定的なエネルギー供給を成し遂げる必要がある。というのは楽観的すぎると感じました。

それができなければどうするかということを私自身も色々と考えていますので、その成功を前提とする議論は危ういものに感じます。

 

とにかく、日本も含め世界が大きな岐路に立たされているのは間違いないことでしょう。そこを間違った方向に導こうとする現政権などは百害あって一利なしなのですが、まだ「アベノミクスは道半ば」などと称している総理に騙され続ける日本人には本書のような観点は届かないのかもしれません。