爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「人はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」水野和夫著

水野さんの新刊、「終わりなき危機君はグローバリゼーションの真実を見たか」(2011年)を先に読んでしまったのですが、これはその4年前の本です。当時はまだ三菱UFJ証券在籍ということですが、その後大学教授に転身されています。
この本でも著者の主張は変わりなく、確固としたものです。つまり、西欧を中心とした社会は16世紀以降に国民国家による近代資本主義を基本に栄えてきたが、大企業がグローバル化することで新たな帝国が中心となる世界へと移行しつあり、これまでの”進歩の先に幸福がある”という「大きな物語」はもはや成立しないということです。それを知らずにこれまでどおりの経済成長で景気回復という政策を取り続けるとさらに疲弊するばかりということです。

しかし、かなり厚い本なのですが、その中身は膨大なデータと図表で圧倒されます。

世界経済は二極化され、先進国とBRICsとの競争になっていますが、実はBRICsというのはブラジルを除いてはかつての大帝国であったわけです。結局、グローバル経済はそれらの大帝国が復活していき、アメリカとともに世界を牛耳っていくためのものなのかも知れません。
これはここまでの500年間の近代資本主義から見ると全く異なる秩序ともいえます。しかし、これまでが先進国がそれ以外の国から収奪してきたという構造だったのが、帝国では国の中にそのような収奪構造を備えることになります。
今でも、中国やロシアなどそういった構造であることが見えますが、それが全世界に波及しかねません。アメリカもこれまでは国民国家(内容は相当違うかもしれませんが)だったのが、新帝国となると周辺各国を完全な支配下に置きます。これは今までにも相当露骨に表れているようですが、さらに激しくなるということです。まさに日本の現状もそれでしょう。

新帝国主義下のグローバル経済では大企業と中小企業の関係もまったく変化して行きます。現在の日本の企業でもまがりなりにも海外展開ができるグローバル志向の大企業ではなんとか利益を出しているのが、地域経済対応の中小企業ではまったく利益が出ません。これはもはや経済構造がそのようになってしまったということのようです。

グローバル企業では労働はもっとも安いところで調達すれば良いので、労働分配率は下がり続けています。日本ばかりではなく欧米でも同様のようです。収入の二極化はさらに激化していきます。世界的なテロの蔓延というのもそこに根源があります。日本もいつまでも安全ではないかもしれません。

経済運営ではマネーサプライ増加でデフレ脱却ということが言われていますが、もはやマネーサプライと物価の関係というのは失われているようです。マネーサプライを増やしたところで、設備投資が自国に落ちるとは限りませんし、労働分配も自国内には行きません。まったく別の国に流れるばかりでしょう。つまり、各国政府は自国の経済への影響力をなくしてしまったということなのです。

もはや成長を至上とする近代モデルは通用しなくなったとすると、これからの新帝国の世界では何をすればよいのか、ドメスティック経済圏では定常モデル、すなわち成長せずに続けていくという新中世主義が取りうるモデルということです。これは、貯蓄率も0、投資の増加も0ということですが、これは目の前が真っ暗ということではなく、逆に「人々が貯蓄をする必要が無い社会とは、将来の生活も、子供の教育も、住む家も心配する必要が無い豊かな福祉社会」でなければならないということです。現在の日本などとは全く逆の方向です。

著者の言うように、さらにグローバル経済化が進むとすると、これまでの資本主義的概念で国を運営していこうとする現在の政府の政策は全くの方向違いということになりそうです。

この前読んだ去年の著者の新刊ももう一度読み返してみる必要があるかもしれません。