爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ローマ亡き後の地中海世界(下)」塩野七生著

1453年にコンスタンチノープルが陥落しビザンチン帝国が滅亡してからあとの地中海世界の話です。オスマントルコがさらに勢力を広げますが、正式な海軍を確立して制海権を奪取するということをしないイスラム勢力の伝統そのままに、海賊を公認するだけであったために、北アフリカの海賊本拠地を中心とした「海賊産業」が栄えることになります。そのために逆に北アフリカでは農業も含めて産業がほとんど育たないということにもなってしまいました。ローマ帝国の時代には穀物の製造基地とも言える状態だったのですが、それも破壊されてしまいました。
海賊に頻繁に来襲されるイタリアなどもほとんどまともに動かなくなりました。

それに対し、ヴェネツィアジェノヴァ、スペインや法王庁マルタ騎士団などが海賊退治の海軍を送りますが、相互の思惑と指導者の無能でほとんど実効が上がらないままとなります。
レパントの海戦でトルコ海軍を打ち破ったという話は聞いたことがありましたが、実はそれも極めて不十分な勝利に過ぎず、形だけの勝利だったということも初めて知りました。

そのすぐ後にイギリスに敗れるスペインの無敵艦隊も実際は張子の虎であったようです。

それにしても最早ルネッサンスが花開いたという時代でもそのすぐ南には海賊に荒らされている地域があり、拉致されて奴隷とされていた人々が多く居たということはあまり意識しなかったことです。
また、キリスト教徒とイスラム教徒の間の敵対心というのも決して今だけの問題でなく長い間に作られたものであることがわかります。どっちもどっちという感が強いものですが。