爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「海の都の物語4」塩野七生著

ヴェネツィアについての物語の4巻は宿敵トルコについて、そして十字軍国家崩壊のあとにかえってシステム化されたエルサレムへの巡礼旅行をヴェネツィアがあたかも現代のパック旅行のように扱うということについての記述です。

ジェノヴァはかなり長期に亘りライバル関係として相当深刻な争いもしてきましたが、トルコとの関係はそれとは全く異なり、商売上利用もしたけれど、それ以上にトルコが最盛期にはヨーロッパへの膨張欲のもっとも強い風圧を受けてしまい、危うく存亡の瀬戸際まで追いやられてしまいます。それでも陸上ではハンガリーアルバニア、海上ではヴェネツィアが抵抗し、なんとか押し止めました。それらの抵抗線がもしも破られていたなら、現代までの歴史は相当違った形になっていたかもしれません。

エルサレム周辺がイスラム教徒の支配下に入ろうとも、一応安定してみればキリスト教徒の巡礼というのはイスラム支配者にとっても非常に割りのいい観光客であり、寺銭さえ払えば喜んで迎えるものとなりました。その巡礼の移動手段や必要品などをすべてそろえて、現代のパック旅行のようにしてしまったのがヴェネツィアです。そのパックを利用して1480年に聖地巡礼に出かけたミラノ人のサント・ブラスカという人物が巡礼旅行記を書いていますが、それをたどって記述しています。ヴェネツィアが国を挙げて行っている事業ですが、まだ15世紀でイスラム国との間の戦いも多くまた海賊盗賊も出没する時代ですので、かなり危険だったようです。また衛生状態も劣悪なところもあり、旅の途中で病気で亡くなる人も多かったようです。しかしブラスカ氏はなんとか行程をこなして無事に聖地巡礼も済ませ故国に帰ることができたようです。
もちろんここで著者が述べているのは、このような巡礼というものを観光事業のように一つのシステム化してしまう当時のヴェネツィアというもののすごさを語っているわけです。