爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「十字軍物語3」塩野七生著

十字軍物語も最後の時代に入ります。1187年にサラディンエルサレムを奪還し、沿岸の港湾都市を除いてキリスト教徒を排除します。
それに対してキリスト教徒側の危機感が募り、イギリスの獅子心王リチャードを中心とした第3次十字軍が結成され、中東に向かいます。そして善戦し講和はできエルサレム巡礼はできるようにはなります。
しかし、そこにローマ法王インノケンティウス3世が新たな火種を持ち込んだのが4次十字軍になります。サラディンが亡くなりその弟のアラディールが後を継いだ隙を突こうとしたのでしょうか。
フランスの王ではなく諸侯に的を絞り上手く炊きつけて出兵させるようにさせました。そしてそれを運ばせる海軍をヴェネツィアに用意させます。しかし、その兵力の見積もりは過大であったようで、ヴェネツィアが用意した船団も多すぎました。それに要した費用も多大だったにも関わらず、結局フランス諸侯の派兵は尻つぼみとなりヴェネツィアへの支払いも約束どおりにはできませんでした。
結局この十字軍はエルサレムへは向かわずにコンスタンチノープルに向かい東ローマ帝国を攻めて滅ぼしてしまいます。これはヴェネツィアの強欲のためと言われているのは、キリスト教徒の側の歴史学者が色眼鏡ごしに見ているためのようで、ヴェネツィアにも相当同情すべき事情にあったように思います。

その後も無駄な十字軍が起こされますが、唯一いい所まで行ったのは皮肉にもローマ法王から破門された状態で派兵した神聖ローマ帝国のフリードリッヒが率いた第6次十字軍ですが、うまく講和に持ち込んだにも関わらず不成功に終わりました。
イスラム側でもちょうどモンゴルの来襲を受けイラクまでは奪われエジプトのマムルーク朝のみという状況になりました。マムルークは武力のみに頼る王朝だったために目障りなキリスト教徒の橋頭堡は排除され、1291年に最後の砦の海港都市アッコンが落とされすべてのキリスト教徒の土地は奪い返され十字軍は終了しました。

どうも最初から最後まで十字軍というのは成功する要素がまったくなかったもののように感じます。しかし、それが結局ローマ法王の権威を損ねることにもつながり、中世からの移行を促したとも言えるようです。