爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「重金属のはなし」渡邊泉著

環境化学、環境毒性学が専門の東京農工大准教授の渡邊さんが重金属の一般から使用法、毒性等について解説したものですが、そうとう内容は高度です。
重金属というのは比重が4以上の金属ということで、貴金属、レアメタルというのも含まれます。
比較的存在量が多いものには生物にとって必要な必須元素というものも多くあり、コバルト、マンガンその他は生体の反応に関わる酵素に必要なものでそれが無いと生存できません。
しかし、必須元素であっても過剰にある場合は毒性があり、それは非常に大きな問題となります。
しかし、現在の科学技術にとっては多種の重金属がなくてはならないものになっているため、危険だからといって使わないと言うわけにはいかないというのも確かです。

しかし、著者のおそらく専門分野であろうと思える、重金属汚染と健康被害についての記述は詳しくかつ多岐に亘ります。
水俣病イタイイタイ病足尾鉱毒など、有名な公害事件の多くは重金属に関わっていますが、その記録を見ると嫌になるほど被害者を軽視し、その害を除こうとする者をいかに迫害してきたか、社会の恥部というべきでしょう。
しかも、それがまったく現在になっても解決していないと言うのはどういうことなのでしょうか。

宮崎の土呂久も砒素中毒と思っていましたが、実はそればかりではなく多種の元素の複合汚染かもしれないようです。それも砒素中毒だけに矮小化し話を収めようとしたために、人為的に取りこぼされた患者も多いとか。
水俣病の患者認定でも問題解決とは到底いえないというのも恥ずかしい話で、それでよく水俣条約などと言う話をできるものです。

現在も問題なのは、あまり触れられませんが(話が大きすぎて)全国各地のカドミウム汚染、魚の水銀汚染、砒素汚染でしょうか。検出限界ぎりぎりの放射能などを問題にするくらいなら、こちらの方がよほど健康被害を出していそうです。