爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「サナダから愛をこめて」藤田紘一郎著

藤田さんといえば有名な寄生虫博士ですが、いろいろなところで発言をして騒動となることもありました。

しかし、さすがに寄生虫などの海外病については詳しくご存知のようです。

 

この本はそのご専門の寄生虫病やウイルス病等、海外で蔓延している病気について、あれこれ書かれたものですので、安心して読むことができます。

 

とは言っても、その実態はとても安心していられるようなものではないのですが。

 

 

日本人が海外とくに東南アジアやアフリカ、中南米等の国を旅行すると感染症にかかりやすいという話はよく聞きます。

日本の衛生事情が良くなりすぎ?免疫力が低下しているのか、現地の人ばかりでなく他の国の旅行者が無事である程度の汚染でも日本人だけが罹患してしまうということは実際にあるようです。

 

日本では問題なく飲用可能な水道水でも、世界各国で日本人が生で飲める水道水が供給されているところは少なく、本書P103の一覧表で日本人が「飲める」とされているのは、シンガポール、アンマン、ベイルート、アメリカ諸都市、シドニー、ロンドン程度のようです。

なお、この場合「飲めない理由」は雑菌やウイルスの他に、硬度が高すぎるローマ、パリも含まれます。

 

 

回虫などの寄生虫病は糞尿の肥料を使う中国農村部にはまだまだ広く分布していますが、それ以上に怖ろしいのはゲテモノ食いで感染する種々の寄生虫病です。

マンソン孤虫病や肺吸虫など、ヘビやカエル、川エビ、サワガニといったものを食べると入り込むことがあるようです。

ご丁寧にそれらの虫の写真も添えられていますが、かなり気持ち悪いものです。

その症状も相当なもので、虫の塊が皮膚の下を行ったり来たりするというものです。

そして、それが脳に来ると重症になり生命も危ないとか。

 

 

性行為での感染症も相当数に上るのですが、それらのうちには、エイズ、肝炎、梅毒、淋病、その他数多くの病気があります。

日本人旅行者がかかるのは売春を通してのものが多いようですが、その比率は非常に高いとか。

男性ばかりでなく女性も相当数が感染してくるそうです。

 

 

まあ見ているだけでゲンナリするような話ばかりですが、それが現実でしょう。

なお、海外病と言われるものには日本の医師があまり馴染みがないものが多く、正確な診断と治療が速やかにできるとは言えないようです。

このために手遅れとなる場合もあるようで、海外渡航状況などをきちんと医師に告げることが必要です。

 

気をつけなければ。とは言ってももう海外旅行に出る機会もほとんど無くなりましたが。

 

 

「考えてるつもり 状況に流されまくる人たちの心理学」サム・サマーズ著

著者のサマーズさんは心理学教授、偏見やステレオタイプといったものに対しての研究がご専門のようです。

本書はそういったステレオタイプがどのような心理的状況から生まれてくるかといったことを、まあ「分かりやすく」解説されています。

本当に分かりやすいかどうかは少し疑問がありますが。

 

この世の誰もが「偏見」というものを持っています。

持っていないという人は勘違いしているだけのようです。

 

テレビのクイズ番組の司会者というのは、決まった台本を読んでいるだけということは少し考えれば分かることですが、それでも毎回その番組を見ているとどうしても司会者自身が多くの知識を身に付けており、賢いかのように感じてしまいます。

 

アメリカでも冤罪事件は数知れず(日本より多いかもしれません)無実の人が自白したために有罪とされる例が頻発しているそうです。

このような事件の発生にも「見た目」が関係していそうです。

見るからに事件を起こしたようだという偏見が逮捕に結びつき、強制的に自白させるということが起きています。

 

このような「見た目」優先というのは、誰でも持っている「流されたほうが楽」という心理によります。

 

目の前で犯罪や事故があっても、その被害者に手を貸すということはなかなかできるものではありません。

これは、特に居合わせた人数が多ければ多いほどその傾向が強まります。

人里離れたところで、1人だけだったらすぐに被害者に手を貸す人でも、都会の真ん中で大勢の人が居れば自分がやらなくても良いという心理状態になってしまいます。

これは「都会の人間は薄情」ということではなく、「都会にいれば誰でも一緒」なのだそうです。

 

男女をめぐるステレオタイプというのも蔓延しています。

男の子にはブルー、女の子にはピンクから始まり、数多くの男女区別が生じます。

数学の苦手な女、地図の読めない女といったステレオタイプがいくつも存在します。

「つもり」から自由になって判断できる力が必要です。

 

このように、本書には各所に偏見というものから脱するためのヒント、助言が散りばめられています。

ただし、非常に長いので、それがどこかというのを見つけるのは大変でしょう。

コンパクトに3冊ぐらいに分割してあれば読みやすい本かもしれません。

 

考えてるつもり ――「状況」に流されまくる人たちの心理学

考えてるつもり ――「状況」に流されまくる人たちの心理学

 

 

「フランス中世歴史散歩」レジーヌ・ペルヌー、ジョルジュ・ペルヌー著

フランス歴史物は昔から好きであれこれ読んできたつもりでしたが、三銃士やああ無情など、せいぜい16世紀以降のものばかりということに、この本を読んで気付かされました。

 

本書は新しくても13世紀まで、中世のフランスのあれこれを現在のフランス各地の風景から想像するというもので、ブルボン朝などは出てきません。

ウィリアム征服王や修道士、巡礼やトルバドールといった、中世らしい事柄であふれています。

 

絶対王朝がフランス全土を治めた時代とは異なり、王が直接治めることができたのはイル・ド・フランス周辺のわずかな土地だけでした。

それも当時は一箇所の王宮にとどまるわけではなく、たえまなく巡回していたそうです。

 

パリ周辺が集中して栄えた近世と異なり、地方の各地がその領主の繁栄とともに栄えていました。

シャンパーニュ、アンジュー、ラングドック等々、各地にそれぞれの文化があったようです。

 

なお、著者のレジーヌ・ペルヌーさんは1998年に88歳で亡くなられたそうです。

中世を主に研究した歴史家として有名だった方だったようで、当時の新聞各紙には弔辞が掲載されたそうです。

ジョルジュさんは弟さんですが、それよりはかなり前にすでに亡くなっています。

共著という形にされたのはレジーヌさんの希望だったとか。

 

フランス人が中世を振り返って古き良き時代と感じるかどうかは分かりませんが、本書はその香りを漂わせているようです。

 

フランス中世歴史散歩

フランス中世歴史散歩

 

 

「日本人 祝いと祀りのしきたり」岩井宏實著

日本には全国的な年中行事、祝祭日の他にも各地に地方的な行事が多く行われています。

しかし、その詳細な点はもはやかなり忘れられているようで、私自身も知らないことが多くなっています。

 

そういったことをきちんと押さえられるという点でなかなか優れた本かもしれません。

著者の岩井さんは民俗学が専門で国立歴史民俗博物館はじめ多くの場所で研究をされてきた方です。適任の方の書かれた本と言えるでしょう。

 

 本書まえがきにも、最近の地域の祭が本来の祭日を無視して休日にあてる風潮を嘆いて居られます。

その意味でも、本来の祭の日というのはどういった意味がある日だったかということを再認識しておく必要もあるのかもしれません。

 

年中行事という言葉は現代でも多くの場面で使われますが、もともとは平安期の宮廷から出た言葉です。

宮中の恒例行事をまとめた冊子などが多数残されており、そこで書き残された行事を年中行事と称しました。

 

しかし、そういった特別な日というものは宮中だけでなく広く社会のあちこちで古代から行われており、それらも年中行事と扱うのが適当でしょう。

 

これを「ハレの日」と扱い、神事を行う日とされてきました。

 

なお、現在は太陽暦で暦を編まれていますが、もともとは太陰暦でした。年中行事もこの旧暦でこそ意味がある場合が多いのですが、行事をそのまま新暦に移行させた場合も多いようです。

 

また、一日というものの認識も現代では夜中の12時で日付が変わるというものですが、これも時代により大きく変わっています。

江戸時代には日の出から一日が始まるという習慣もありました。

 

しかし、時代をさらに遡ると古代には一日は日没から始まるという考え方があったそうです。

室町時代くらいまではこの風習が残っており、物語や記録などを読む場合には注意が必要なようです。

したがって、大晦日からの年越しの風習でも今で言えば大晦日の夜の食膳というものが、実際は新年第一回目の正餐であるという感覚があったようです。

 

また、祭の際の宵宮というものが祭り前日の夜から行われる場合がありますが、これも宵宮から祭の日が始まるという認識であったもののようです。

 

 

江戸時代には広く藪入(やぶいり)という風習が行われていました。

これは奉公人が正月の16日と7月16日に生家に帰るというものだったのですが、これは正月16日がお斎日といって先祖を祀る日だったからということです。

そのために、奉公に出ている子女も家に帰したというところから起こったものでした。

明治以降は「朔日正月(ついたちしょうがつ)」の風習が一般的となり、帰省もこの正月近辺となりましたが、元々はこのような先祖祭から起きたものでした。

 

 

今では祝日と祭日というものが混同されてしまっているようですが、もともとははっきりと使い分けられていたもののようです。

 

明治初期の制定により、1月5日を新年宴会、2月11日を紀元節、11月3日を天長節として、これらが祝日、

1月3日が元始祭、1月30日が孝明天皇祭、4月3日が神武天皇祭、9月17日が神嘗祭、11月23日が新嘗祭、とされてこれらが祭日と決められました。

その後、明治11年になり春季皇霊祭(春分の日)、秋季皇霊祭(秋分の日)を祭日に、四方拝(正月元旦)を祝日に加えられたそうです。

 

戦後になり、祭日は廃止され祝日とされました。祭日は名前を変えられてそのまま祝日化されたものが多いようです。

 

その他、年間のさまざまな行事の解説もあり、たとえば6月1日は「氷の朔日」とされています。

当地、熊本県八代では「コッズイタチ」と言われていますが、これの意味がようやく分かりました。

 

こういったものは失くしてはいけないものと改めて感じました。

 

日本人 祝いと祀りのしきたり (青春新書インテリジェンス)

日本人 祝いと祀りのしきたり (青春新書インテリジェンス)

 

 

「これが日本人だ!」王志強著

著者は中国生まれの中国人、IT関係の開発者として日本でも勤務、20年に渡って中国と日本を行き来しているそうです。

その王さんがあくまでも中国人に向けて日本と日本人を解説している本ですが、これを訳者の小林さゆりさんが中国の本屋で見つけ、是非にと頼み込んで日本語訳したものです。

 

内容は多岐にわたっており、企業で見られる日本人の姿から歴史上の日本人論まで、さまざまな場面での日本人というものを、あくまでも中国人としての意識から論じています。

 

著者は種々の日本人著作を読破しているようで、文化的、民俗的視点から日本人論を展開していますが、実際に関わってきた多くの日本人を観察したものは深いものを感じますが、書籍から得られたものはやや表層的なものと感じます。

しかし、まあ一般の日本人が自ら考えている日本人論よりははるかに優れた観点であろうとは言えます。

 

なお、日中戦争以降の問題点についてはさすがに詳しく捉えられているようです。

この辺は中国政府の公式的な姿勢とも異なる理性的な観点と見ることができます。

こういった見方ができる中国人も居るということは心強いものです。

 

内容は広範囲で詳細なものなので取り上げませんが、面白い点をひとつだけ。

 

中華思想」というものは日本の中国論の中で常に語られるものですが、中国人の著者は中国では一度も聞いたことがなかったそうです。

また、中国の大辞典「辞海」にも載っていません。

どうやらこの言葉は日本で広く使われているだけのようです。

 

これは日本人の中華文化圏内での周辺部であるという自意識から生み出されたものであろうということです。

 

さらに、日本では中国に中華思想がある上に、朝鮮半島には「小中華思想」があるとしています。

朝鮮では中国の影響が強かったために伝統文化面では日本に対して多少の優越感を抱いていますが、それへの対抗意識としてそのような見方を取ってきたのだろうということです。

 

この点は面白い観点と感じました。

 

これが日本人だ!

これが日本人だ!

 

 

葉酸サプリの問題点 FOOCOM.NETで瀬古博子さんが指摘

食品関係でここで度々取り上げるのが、食中毒の他には健康食品、サプリの問題点ですが、どうも問題点ばかりが目につく割には社会の関心が薄いように思えますので、気がつけばしつこく書いていきたいと思います。我慢してお付き合いください。

 

今回の問題は、FOOCOM.NET専門家コラムで瀬古博子さんが取り上げている「葉酸サプリ」の問題点です。

 

気になる葉酸サプリ | FOOCOM.NET

 

葉酸」と言ってもなかなか知られていないものかもしれませんが、レバーや緑黄色野菜に含まれているという、ビタミンの一種です。

 

水溶性ビタミンですので、過剰摂取による害は比較的少ないと考えれていましたが、蕁麻疹、発熱、呼吸障害の他、悪性貧血を起こすと言われています。

その摂取量は成人で1日200マイクログラム、妊娠可能性のある女性で400マイクログラムということですが、上限量が1000マイクログラムとあまり差がない量になっています。

 

それが、瀬古さんの記事によればサプリの1日摂取量が上限量に近いものもあるとか。

他の食品からの摂取も考えればそのサプリを飲むと上限量以上を摂取してしまう可能性もあります。

 

また、葉酸が特に必要なのは妊娠前から妊娠後3ヶ月までの間であり、それ以降は摂取してもしょうがないのですが、サプリの商品のイラストには妊娠後期の女性の姿が書かれており、その事実も誤認させる可能性があるようです。

 

なんとなく「妊婦には葉酸」という程度の知識しか持っていない場合は出産間近までサプリを飲んでしまうことにもなりそうです。

 

 

この記事で瀬古さんが書かれているように、サプリで一番問題となりそうなのは、「過剰摂取」であろうと思います。

「毒にも薬にもならない」程度の健康食品であれば、まだ危険性は薄いのかもしれませんが、なまじ身体に効果があるものだとこちらの危険性が問題になるだろうと思います。

刻み海苔によるO157食中毒の広がり 「安心!?食べ物情報」より

東京立川市の学校給食でO157集団食中毒が起き、大阪の海苔業者の刻み海苔が原因とされました。

今週の渡辺宏さんの「安心!?食べ物情報」によると、同じ製品により和歌山県御坊市大阪府大東市、福岡県久留米市O157食中毒が発生しているそうです。

 

http://food.kenji.ne.jp/review/review905.html

 

製造業者の大阪市の「いそ小判海苔本舗」は無期限の営業禁止処分となったそうですが、まだ流通には製品が残っているようです。

また、それにしても東京から福岡まで広範囲に流通しているのにも驚きます。

 

 

最初の事件の報道で流れていたその加工業者の工場の場面は私も見ましたが、素手でノリを一枚一枚機械にいれて刻むというもので、あれで手にウイルスが着いていれば全部汚染だなと納得してしまいました。

 

食品の加工流通には思わぬ弱点が存在するものです。

 

特に、この刻み海苔のような最終段階で加熱するということがない食品の場合はもっとも危険性を持つのでしょう。

 

 

なお、他にも渡辺さんが引用している記事は、アメリカのO157、水素水の騒動、健康食品の問題等、食品関係いろいろの問題点を指摘され、なかなか参考になります。

記事最後に、ご健康を害されているという記述がありますが、回復されることを祈ります。