爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ミサイル防衛 日本は脅威にどう立ち向かうのか」能勢伸之著

北朝鮮国威発揚の手段としてミサイル開発に力を入れ、頻繁に発射試験を行っていますが、そのたびに防衛装置を配備しています。

それがどのようなものかということも、深くは知らないまま、本当にあれで守れるのかと疑っていましたが、そこには冷戦時代から続くミサイルの攻防の歴史があり、兵器開発の競争があったようです。

 

本書著者の能勢さんはフジテレビの報道に携わってこられた方ですが、防衛問題の担当が長くその経験を活かしてこの本を書きました。

2007年の出版ですが、その後さらにミサイルをめぐる事態は進展しており、10年前にはまだアメリカ本土を狙ったミサイルは無かったものがそれも可能となっています。

 

しかし、とりあえず10年前の状況を頭に入れておく必要はあるかもしれません。

 

そもそも「弾道ミサイル」とは何なのか。よく分かっていませんでした。

この本もその解説から始まっています。

 

弾道ミサイルの定義にもいろいろあるようで、中には不正確なものもあります。

そこで、その定義を次のように明らかにしています。

「やまなりの曲線(≒放物線)(これが”弾道”)を描いて標的に向かう誘導弾のこと」

だそうです。

したがって、発射直後から上昇の途中までで推進ロケットの噴射は終了しあとは慣性で飛行します。

これに対し、低空を噴射を継続して飛行し目的地に向かうのは「巡航ミサイル」と言います。

 

弾道ミサイルの元祖は第二次大戦中にドイツが発射した「V-2」でした。

イギリスなどを狙って発射され、ロンドンを狙った1500発のうち500発が着弾して2500人の死者を出しました。

 

その後、東西冷戦時代には米ソ双方で開発が進み、大陸間弾道弾(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が配備されました。これらは幸いにも実際に使われたことはありません。

 

弾道ミサイルを防ぐ方法の開発も進められました。

始めのうちは弾道ミサイルの進行方向の先で核ミサイルを爆発させて破壊するという物騒な方策が考えられましたが(ABMシステム)これは米ソの条約で廃棄されました。

 

その後、レーダーや衛星を使いミサイル発射を察知して迎撃ミサイルを発射し破壊するというシステム開発が進められ、現在ではかなりの実用性を持ち実戦配備されています。

 

本書の残りの部分では、ミサイルの探索をどうするのか、そして実際に迎撃するのはどうするのか、さらに北朝鮮のミサイルへの対応ができるのかという記述がされていますが、それは非常に詳細なものとなっており、とても簡潔にまとめることはできません。

(というか、内容が少し難しいようです)

 

そんなわけで、詳述はあきらめますが、特に面白かったエピソードだけ。

このような迎撃システムが最初に稼働したのは1991年の湾岸戦争の時だそうです。

しかも、その戦争中の短い期間の中で探査時間が短縮されていきました。

その結果、1999年のユーゴスラビア攻撃の際にはさらに向上した性能で臨めたそうです。

 

イージス艦は新型のものが何隻も就航していますが、そのうち1隻の迎撃能力を弾道ミサイルに最適なものにしたところ、他の航空機や巡航ミサイルに対する能力が激減してしまったそうです。

したがって、実際に運用する場合はそのイージス艦を航空機などから守る別のイージス艦を付き添わせる必要があるとか。

 

ミサイル防衛―日本は脅威にどう立ち向かうのか―(新潮新書)

ミサイル防衛―日本は脅威にどう立ち向かうのか―(新潮新書)

 

 

 

「古代日本のルーツ 長江文明の謎」安田喜憲著

著者は環境考古学が専門ということで、さらに元々は地中海文明を研究対象としていたのだそうですが、成り行きで中国の長江流域の古代文明の遺跡発掘に携わることとなり、その成果からこの長江文明というものが大きな意味を持つことに確信を持ったようです。

 

これまでの古代文明観といえば、4大文明と言われるエジプト・メソポタミア・インダス・黄河というもので、いずれも大河川流域に成立し小麦栽培の畑作による農業、都市の形成、青銅器、文字の使用といった共通点を持つものとして認識されていました。

 

しかし、中国でも南方の長江流域に見られる遺跡はどうやら稲作を行っていたようです。しかもどうも黄河文明に先行していたと見られます。

都市遺跡と言える規模のものが発掘されていますが、文字の使用は証拠が得られません。

 

これまでの古代文明の認識はあくまでもそれまでに知られていた4つの文明がたまたま同じような特徴を持っていたために何かそれがなければ文明とは見なせないかのような観念を作ってしまいましたが、それはどうやら誤りで様々な形の文明があったとしなければならないようです。

 

 古代文明が起こった地域はどこも乾燥地帯と湿潤地帯の境にあります。

乾燥地帯の草原には遊牧をする人たちが暮らし、湿潤地帯の大河流域には畑作農業をする人たちが住んでいました。

しかし、5700年前に気候が寒冷化したことが環境考古学の成果から分かっています。

そのために、北緯35度を境にその南では湿潤化が進む一方、その北の乾燥地帯ではさらに乾燥が強まりました。

その結果、家畜の草を求めて遊牧民が南下し農耕地帯に侵入したのが古代文明の発祥につながったということです。

 

長江流域では、それ以前にすでに米を作る農業が始まっていました。

麦作より集団的で組織的な農業が行われていたと見られますが、それだけでは文明化したとは言えなかったところです。

しかし、全世界的に起きた気候変動は長江流域にも影響を及ぼしました。

ただし、こちらでは6300年前と他の地域より600年早い可能性があります。これはこの地域の気候変動が他よりも早く起きたということによります。

つまり、他の文明より長江文明は早く起こったということにもなるようです。

 

長江文明では都市の遺構は残るもののそこには目立った金属器はありませんでした。

そのために、文明化していなかったと評されれることにもなったのですが、実はそれ以上に高い技術によって加工された玉器という「玉(ギョク)」を使った道具や装飾品が出土しています。

 

この文明を創ったのはどのような人々か。それは現在の中国西南部の山岳部に住む少数民族の苗族であろうとされています。

ただし、長江中流域の遺跡から現在苗族が住む雲南省などははるかに離れています。これは、他の文明と同様に北方からの遊牧民流入によるものと見られます。

文明を開いていた人々すべてが追われたわけではないのでしょうが、多くの人々が僻地に逃れました。

その一部が現在の苗族、そして東方の海に逃れた人々もいました。

東方に逃れた人々は海辺から朝鮮、台湾、そして日本にも達していたかもしれません。

縄文文化が苗族などの風習と似たところがあるのはそのせいかもしれません。

 

長江文明は「美と慈悲の文明」であると巻末に書かれています。

他の4大文明はどれも戦いで他を圧するものでした。

森が産んだこの文明はこの先の人類を救うものかもしれません。

 

 

 

「わかりやすい朝鮮社会の歴史」朴根鳳著

著者(「根」の字は本当は土偏)は韓国の民間の歴史研究者で、この本も韓国国内向けにあまり知られていない歴史を解説するというものになっています。

本書「はじめに」に書かれているように、韓国人が自国の歴史を振り返る時にともすると固定観念にとらわれる過ぎることがあるということです。

それは、謹厳さ、悲壮感、窮屈さ、退屈さといったものなのですが、実はそればかりではないということを自国民に知ってほしいと書かれたそうです。

 

朝鮮半島の歴史について、基礎知識すらあやうい日本人がそれを飛び越えて読んでしまって良いのか分かりませんが、まあ和訳本が出ているのですから良いのでしょう。

 

韓国人が自国の歴史でイメージするものは多くは李朝以降のもののようです。

それ以前の高麗より昔というものはなかなか想像できないということもあるとか。

 

儒教道徳が深く浸透した李朝以降とは全く違った道徳観が1400年前の新羅王朝時代には存在していました。

新羅王室では王室の血筋を守るために近親婚をしていたそうです。

また男女の交際も自由なもので、恋愛ということもあったとか。

今日の韓国人からは想像しにくいもののようです。

 

その頃の結婚というものも、嫁取りではなく新婦の家に夫が入る形だったそうです。

日本の古代とも合わせて考えると面白いものです。

これは女性の地位の高さとも関係していました。

また初期の高句麗では兄が死んだ場合は弟が兄の妻と結婚するという風習もありました。

これは遊牧民社会では広く見られることですので、高句麗の出自と関係しそうです。

 

嫁取り婚というものは李氏朝鮮になって中国の影響が強くなってから広く広まったそうです。

しかし、国の施策としてそれを強制しても一般にまではなかなか浸透せず、庶民までその習俗が広まったのはようやく16世紀頃、壬辰倭乱(秀吉の朝鮮出兵)の時代近くになってのことだったそうです。

朝鮮は儒教道徳だと考えると、時代によっては大きな間違いになりそうです。

 

韓国では現在はハンコ(印鑑)が優先する風習になっていて、古来からそうであったかのように感じられているそうです。

しかし、これも古文書を見ると書押や手決と呼ばれるサインが広く用いられていることが分かります。

公文書には役所の印鑑といったものが押されることもあったのですが、ハンコが一般化したのは日本による韓国併合のあとになってからだそうです。

 

日本の江戸時代、長崎に行き来していたオランダ商人が船の難破で朝鮮に流れ着いたことがあったそうです。

しかし、当時はそのような事情であっても流れ着いた外国人は帰国を許さずすべて抑留することとされていたとか。

その一人のハメルという人は13年の後にようやく脱出し長崎を経てオランダに帰ることができたそうです。

彼はその後「ハメル漂流記」という本を書いたということです。

 

こういった話は韓国人もあまり詳しく知らないことのようです。

 

わかりやすい朝鮮社会の歴史

わかりやすい朝鮮社会の歴史

 

 

「太陽からの光と風」秋岡真樹編著

太陽光発電などに注目が集まっていますが、太陽というものについての知識はそれほど深く行き渡っているとも言えないのではないでしょうか。

 

本書は太陽に関しての様々な方面からの解説が、様々な分野の専門家によって記されています。

ただし、ちょっと詳しすぎて難しいものかもしれません。

理系大学生以上かも。

 

太陽の歴史から記述が始まっています。

さらに、次の地球のエネルギーバランス、温暖化メカニズム、さらに太陽エネルギーと生態系との関係といった部分はこれまでも興味があり知識もあるところですので、まあ聞いたことがあったかもというものでした。

 

しかし、太陽フレア太陽風、そしてそれを地球磁場で守っているということやオーロラとの関係は良く知らなかった分野の話でした。

 

宇宙空間での太陽風の影響は激しいもので、コンピュータが破壊されたり誤動作したりと危険なもののようです。

 

また、太陽自体の構造というものも、ほとんど知らないことが多いものでした。

太陽は水素とヘリウムでできており、その内部では水素が熱核融合反応を起こしています。

中心部では温度が1500万℃、密度が水の150倍、圧力が2000億気圧で、その環境だからこそ水素の熱核融合反応が安定して進んでいるとか。

だから地上での核融合反応なんてうまくいくはずも無いということでしょうか。

 

さらに、中心部で発生したエネルギーもこのような条件ではすぐに外部に放出することができず、周囲のイオンと何度も衝突しながら徐々に外に染み出してくるというイメージなのだそうです。

したがって、現在太陽表面から宇宙に向かって放射されるエネルギーは実際は数万年も前に中心部で発生したものだとか。

 

生体時計という、生物活動がちょうど1日周期になっているように見える現象があります。

これは、たとえ日光が当たらないとしても周期的に動くことから生体内に制御装置があることが分かるのですが、その周期が人間では約25時間と、実際の1日の長さとは異なることが知られています。

 

以前に聞いた話では、これは現在の日周期とは異なり生物発生の頃の周期によるという話だったように記憶しているのですが、実はそうではなく、わざと現実の1日周期の時間の長さと違えることで、毎日の日照で時計の狂いを調整するという作用を必要とし、その結果、そのリズムを守りやすくされているということです。

生物の制御というものの不思議さを感じさせる話です。

 

まあ、太陽光発電を売ろうという人たちもできるだけ勉強して正確な知識を持ってからにしてほしいものです。

 

太陽からの光と風 -意外と知らない?太陽と地球の関係 (知りたい!サイエンス)

太陽からの光と風 -意外と知らない?太陽と地球の関係 (知りたい!サイエンス)

 

 

森友学園問題、だいたい構造が見えてきた

森友学園をめぐる国有地売却疑惑、だいたい事件の構造が見えてきたようです。

 

野党の諸君の国会での追求も攻めあぐねているようで、これもその構造から来るものでしょう。

 

それは、これが「アベ案件」であり、官僚の「自発的な取り計らい」によるものだからです。

 

www.scoopnest.com

安倍が発覚当初から完全に強気で「関わっていたとしたら議員も辞める」とまで言い切っていたのももっともで、本人は何も指示もしていないというのは完璧な事実だったからです。

 

しかし、それがなぜこのようにできたのか。そこが官僚の「アベ案件」の扱い方によるからです。

 

政治家が何も言わなくても勝手に、しかも完全に「合法的に」取り計らってくれる。(なにしろ一応法律の一番のプロたちですから)

何も怖いものがあるはずがありません。

 

彼らがこねくり回した法律解釈などに囚われず、国民の知りたいことをきちんと調べる「特別検察」が日本にも必要でしょう。

 

政治家たちの監視だけでは不足していることがわかります。

”賀茂川耕助のブログ”を読んで No.1178 人間と機械協働の未来を

賀茂川さんのブログ、今回はAIについてですが、経産省が「人工知能(AI)やロボットなどの技術革新をうまく取り込まなければ、日本の雇用が2030年には2015年度よりも735万人減るとの試算」と発表したそうです。

 

技術をうまく利用すれば現象は161万人に押さえられるということです。

 

こういった試算というのが根拠としたモデルが妥当かどうかまったく分かりませんが、数字が出されれば独り歩きするということでしょう。

 

ただし、賀茂川さんの文章はこの発表にかなり疑いを持っているように感じます。

 

特にアメリカでの商店従業員削減の動きや他にも自動化により労働者雇用の機械への置き換えという方向性は確実に進んでおり、技術革新の利用により雇用の減少は押さえられるという見通しは甘いと考えざるを得ないでしょう。

 

文中にもあるように、30年間で正社員雇用は労働者全体の80%から50%に低下しました。

日本が失業者が少ないと言ってもそれは低収入しか得られない人々の増加でしかありません。

 

この非正規社員雇用はAI化進行で機械に置き換えられるのは間違いないでしょう。

そうなると日本で失業者が少ないという状況はいつまでも続くわけではないことが明らかであり、経産省の見通しも大きく狂うことになります。

 

賀茂川さんも最後は「機械と人間を競わせるのではなく協働させるような未来を築かなければいけない。機械の所有者が人間である限り、それは可能なはずである。 」と結んでいます。

しかし、そこには具体策も明確な見通しも無いようです。

 

「維新・改革の正体 日本をダメにした真犯人を探せ」藤井聡著

この書評欄は一応読了したものだけを書いていますが、この本はあまりのアクの強さに途中で断念しました。

しかし、その事実だけでも残しておこうと書き記してみます。

 

なお、著者の藤井聡さんは土木学者ですが、国土計画などにも深く関与し、その著書も以前に読みました。

「巨大地震Xデー」藤井聡著 - 爽風上々のブログ

その時も、国土強靭化という目的の確かさは伝わったものの、国家財政のバランスなどまったく考えずにすべて注ぎ込めと言わんばかりの論旨にちょっとたじろぐほどの感覚を覚えました。

この本もまったく同様のものです。

 

 本書の論旨を一言で言えば、土木建築の公共投資に何が何でも邁進すべし。です。

それに反対する勢力を罵っているというものです。

 

そのために、昨今目立ちすぎるほど目立っている「維新」「改革」を挙げ、それを論破するといった形式を取っています。

(図書館で本書を手に取ったのも、その題名にひかれてのものです。引っかかった)

 

私も「構造改革」とか「規制緩和」といったものには大いなる疑問を持っています。そのために、そういった点を解説されているものかと錯覚してしまったのでした。

しかし、全然違った。

 

本書は、元筑波大学副学長の宍戸駿一郎氏、元国土庁事務次官下河辺淳氏、元衆議院議員で労働大臣等を歴任した小里貞利氏との対談に、著者の解説を付け加える形で構成されています。

 

まあ、色々味付けはされていますが、上記の主張を彩るという目的だけのために使われているようです。

 

著者はとにかく、公共事業を基に経済成長を求めるという立場であることを隠しもしません。

 

それに対する勢力は、

1,財務省を中心とした緊縮財政派

2,自由放任と小さい政府を是とする新自由主義者

3,日本財布論を標榜するウォール街

4,日本経済を脅威とするアメリカ政府

5,公共事業そのものを悪と見なす国内マスメディア

 

といった面々であり、彼らを批判しようというものになっています。

まあ、種々雑多な人々で、彼らも自分たちがまとめて批判されるとは思ってもみないことでしょう。

 

そして、どうやら経済成長云々もそれが第一目標ということではないようで、とにかく「土木公共事業に投資」することだけが真意というように見えます。

 

一応、誰もが否定出来ないはずの「経済成長」を表に出しておけばあとの土木事業礼賛にも乗ってくれるのではないかという構成のようです。

 

しかし、「経済成長否定派」の私から見ると、そのカラクリも明白ですので他の部分の妖しさも見分けやすいというものでした。

 

 

維新・改革の正体―日本をダメにした真犯人を捜せ

維新・改革の正体―日本をダメにした真犯人を捜せ

 

 まあこんな本買う人も居ないとは思いますが。