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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

微生物の話 第6回 微生物の学名など

気ままなエッセイ 生物

群馬の研究所へ派遣されての、抗生物質作用機構研究は予想通りなんの成果も上げられずに終了し、以前居た会社の研究所に戻りました。

 

仕事は以前の保存菌株の維持管理や新規株の分類同定に加え、さらに新規物質の探索のための微生物分離作業も加わりました。

途中で、それまで指導してくれていた先輩が別部署に異動となり、私とパートの女性1人の2人だけという心もとない体制での実施となりましたが、元々それほど期待されている部署でもなく大過なく過ごしていました。

 

まあそれほど忙しく仕事をする必要もなかったので、微生物の分類方法論であるとか、学名決定の方法などを調べることも多くなりました。

 

そもそも、微生物(細菌やカビなど)を扱って仕事をしているという人は多数いらっしゃいます。

発酵工業関係でも伝統的な酒・味噌・醤油・麹といったところから、近代的な発酵工業の大会社もあります。

また、医療関係で病原菌などを扱う医師・看護師・検査技師の人たちも多数に上ります。

 

こう言った人たちのほとんどは、「微生物の分類などにはほとんど興味がない」ということは間違いのないところです。

菌の分類というものは、昔の形態学や菌栄養学によるものから始まり、近年は遺伝子分類が盛んになっていますが、常に新たに分類が変更されているといっても過言ではありません。

 

一番大きな動物、植物、細菌といった分類さえ変更されたこともあります。

一番細かい分類の「属」(ぞく)や「種」(しゅ)といったところはコロコロ変わっている印象です。

例えば病原菌でもあるSalmonella(サルモネラ)やPseudomonas(シュードモナス)などは種の分類体系が大きく変化しています。

 

そうすると、「種が変わるのは迷惑だ」なんていう声がお医者さんや関係分野の人たちから上がってくるんですね。

そういった人々は大きく捉えた生物分類といったことにはまったく興味がなく、応用面にしか関心がないというのは明らかです。

 たとえば、サルモネラ菌でもチフス菌、パラチフス菌、ネズミチフス菌というグループは以前はSalmonella typhi、S.paratypi、S.typhimurium と別種に分類されているのですが、現在の分類ではすべてSalmonella enterica一種になっています。

これでは困るというのがお医者さんたちの立場のようです。

 

また面白いのは「細菌の学名の読み方」です。

学名は全部ローマ字で書かれていますので、英語かドイツ語のように読まれるというのが普通のようです。

したがって、医学分野では昔のドイツの影響が強いのでドイツ風の読み方、それ以外ではほとんど英語風の読み方となっています。(最近は医学系でも英語風かも)

 

例えば、大腸菌Escherichia coliは英語風に読めば「エシェリシア コーライ」でしょうか、ドイツ語風であれば「エシェリヒア コリ」でしょう。

これが医学分野、遺伝子研究、発酵分野で読み方が違うということにもなります。

まあ読み方にかなりのばらつきがあるということは皆判ってはいるのですが、「どう読んでも良い」などと考えている人もいるようです。

 

しかし、これには実は正解があります。

微生物の学名については国際微生物会議のよって決められた国際細菌命名規約というものがあり、その中で「学名はラテン語として扱う」と決められています。

www.ncbi.nlm.nih.gov

つまり、読み方もラテン語として読むということです。

ラテン語も古典と現行では読み方が変わってきていますが、それぞれの綴と音は必ず対応しており、たとえば「ce」は「ケ」としか読みません。

従って、大腸菌は「エスケリキア コリ」と読むべきでしょう。

 

ただし、一般の学会(分類同定を主に扱う学会を除く)ではこのように読んでも誰にも理解されないのは明らかですので、避けた方が無難でしょう。

 良くて「変わり者」悪くすれば「破壊活動者」と見られかねません。

 

こういったことをやっているうちに徐々に研究所での仕事も行き詰まっていったのでした。

これが大体、私が40歳頃の話です。