著者の野口さんは評論が主の著述家です。
したがって、幕末明治の歴史的なことがらを書いていますが、あくまでも物語として扱われていると感じます。
ただし、個人の感覚や言葉などは創作でしょうが、大きく歴史事実と異なるものではないと思います。
明治維新前後にはそれまでの武士による政治、幕藩体制から大きく変化しましたが、そこには武士階級にはだまし討ちとも言えるような大きな変革があり、それまでの禄というものを簡単に取り上げられて特権も失い放り出されたように感じ、不満が積もり積もっていきました。
そのため各地で不平士族の反乱と呼ばれるものが頻発し、最後に西郷隆盛らによる西南戦争が起きてその鎮圧をもって終わりました。
そのような士族たちにスポットを当て描いたのがこの本であり、扱われている人々は有名無名含めてさまざまですが、あまり有名な人は描かれずに無名のまま消えていった人を主にしています。
越後の長谷川正傑、会津藩永岡久茂、米沢藩小島龍三郎(雲井龍雄)、長州藩富永有鄰、旗本大谷木醇道、熊本神風連の乱の参加者、特に個人は描かれずに西南戦争最後の城山の戦いといったところです。
士族反乱が頻発したのには、俸禄を失った士族全体の不満ももちろんですが、特に冷遇された旧幕臣、反乱側と断定された会津藩などへ対する同情も加わってのことのようです。
本書はこういった運命に翻弄された人々の姿を描き、それが小説仕立てであるためにさらに印象深いものになっていると感じました。
小説というものは普段あまり読まないのですが、その力はすごいものと感じます。
ただし、書評を書くにあたってはあまり細かい筋書きなどを書いてしまうのも(ネタバレっていうんでしょうね)まずいでしょうし、少しやりにくいものです。
まあ読後感は「哀れを感じさせた」といった一言でしょうか。