爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「階級にとりつかれた人びと 英国ミドル・クラスの生活と意見」新井潤美著

著者の新井さんは子供の頃からご父君の仕事の関係でイギリスなどで過ごし、学校生活で階級の違いというものを身にしみて感じたそうです。

たまたま、知り合いの紹介で全寮制の女子校に入ったということですが、そこは当時でも珍しいほどの厳格なお嬢さん学校で、そこで上流のマナーというものにも触れました。

しかし、さすがにその頃にはそういった学校は特別で、その後転校した学校ではかなりゆるやかにはなっていたようです。

 

イギリスが階級社会であるということは有名な話で、イギリスの小説や映画などのあちこちにそういった点が描かれているということは気がつく人も多いでしょう。

マイ・フェア・レディでは直接このテーマを扱っていますし、メアリーポピンズも乳母兼家庭教師としてミドル・ミドルクラスの家庭に雇われた、以前はアッパークラスの家庭で勤めていたロウアー・ミドルクラス出身のメアリーの物語という、非常に複雑な階級間の問題を扱っているということです。

さらに、最近の「ミスター・ビーン」でもつねにネクタイをしめジャケットとズボンを身に付け、発する言葉もミドルクラスであることを明らかに示すミスタービーンの行動を面白おかしく描写していますが、これも常に周りの人間の様子をうかがいそれらより一枚上を行こうとするミドルクラスの典型的な生活態度を表しているそうです。

 

上流階級、アッパークラスという貴族階級というのは明白な身分ですが、それとほとんど変わらない程度の「アッパーミドルクラス」と呼ばれる人びとがいました。

19世紀には医者や法廷弁護士といった職業の人びとがそれに属し、さらに貴族階級出身でありながら相続できなかった次男・三男といった連中もそこに降下してきてそのクラスを形成していました。

 

それに対し、19世紀に増加していった商店や中小企業の経営者と、ホワイトカラーの俸給生活者を「ロウアー・ミドル・クラス」と呼んで区別をしていったそうです。

これは労働者階級とははっきりと分かれているものの、アッパークラスやアッパーミドルクラスとは大きな差が付けられていたそうです。(ああメンド)

 

19世紀末には、ロウアーミドルクラスの中でも特にクラーク(事務員)と呼ばれる人びとが産業構造の変化により大きく増加していきました。

目立つものは叩かれるという通り、アッパークラスなどの人びとからの嘲笑を受けながらも彼らは上昇志向を持ち生活や風習を上流風に変えていく努力を続けました。そしてそのことが増々上流階級の侮蔑を呼んだそうです。

 

新興勢力である、ロウアーミドルクラスの人々向けのレジャーも充実していきます。

1891年に創刊された「ストランド・マガジン」という雑誌は、コナン・ドイルシャーロック・ホームズシリーズを掲載されたことで有名ですが、これもロウアーミドルクラスの人々を読者とする雑誌であったそうです。

したがって、シャーロック・ホームズも彼らが親近感を感じられるような存在として描かれているということです。

 

ロウアーミドルクラスの人々はそれまでの街中の住居から郊外の一戸建てに移り住むようになります。

しかし、「suburbs」という単語は日本語の「郊外」とはまったく異なる語感を持つそうです。(ついでに、アメリカ・カナダ・オーストラリアでの意味とも異なります)

イギリスの「suburbs」は決しておしゃれな存在ではなく、マイナスイメージが強いということです。

イギリスの辞書にはsuburbanの持つ意味として「郊外に属する」というものの他に「郊外の住人の特徴とされる、劣ったマナー、狭い視野を持つこと」という意味があるそうです。

特にロンドン近郊のsuburbanは通常は揶揄的に使われるということです。

 

なお、「マイ・フェア・レディ」はバーナード・ショーの「ピグマリオン」を舞台化したものですが、ミュージカル化するにあたりアメリカ出身のアラン・ジェイ・ライナーが台本を書く際に、ピグマリオンの持つ階級性という要素をできるだけ薄めるように操作したそうです。

ライナーはアメリカ出身でありながら、イギリスのパブリックスクールで教育を受けており、イギリスの階級体制を熟知していたために、それをその通りに描いてしまうと他国の人間(アメリカも含め)には理解されないということをよく知っていたからだそうです。

 

イギリスでは、話す言葉やしぐさなどの隅々で階級が分かるそうです。日本で言えば方言で出身が分かるといった感じなのでしょうか。

まったく、面倒な社会だと感じます。